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月刊メディカルサロン「診断」

「一億人の新健康管理バイブル」から(後編)掲載日2018年2月5日
月刊メディカルサロン3月号
その2

もう20年以上前になる平成7年に執筆した「一億人の新健康管理バイブル」(講談社)。自筆の書籍ですが、今読み返してみると、あの頃にあんなことを語っていた自分にぞっとします。

前回と今回の2回で、その「おわりに」を掲載します。

「一億人の新傾向管理バイブル」(講談社) 
おわりに

資産とは何か、じっくりと考えたことがありますか。人は生まれてから死ぬまで、生活し行動するなかで、少しずつ資産を蓄えていくのです。
ところで、この資産というものは、3つに分けて考えなければいけません。すなわち、知的資産、人的資産、財的資産です。知的資産とは真面目に学び、経験を積み重ねるなかで自分の頭のなかに組み立てられた知識や判断力、人的資産とは他人を思いやり、徳を施すなかで自分を中心としてできあがった人間関係、財的資産とは経済活動を営むなかで、蓄えられていったまさに財であります。財的資産だけが資産だと思ってはなりません。3つをバランスよく蓄積し、真に豊かな人生を築いていかなければならないのです。

バブル時代が始まるまでの戦後40年間、肉体をすり減らして真面目に汗水を流して働き、少しずつ国民は資産を蓄積してきました。それがお金にお金を生み出させようとするその後の狂乱した世相のなかで、すべてを一気に失ってしまったのです。今の日本にお金がお金を生み出す経済的背景はありません。にもかかわらず、夢よもう一度とばかりに、財的資産にしか目を向けることができない人むけの書物が書店の店頭に目立ちます。日本では財に財を生ませる時代は終焉しているのです。
財的資産に対しては一生懸命働いた分以上のものを夢見てはいけません。どうしても財の夢からさめないのなら日本を離れてシンガポールに行くことです。世界資本の動きに敏感になることが大切です。シンガポールで少し成功したらいつまでも執着せず、素早く台湾、タイ、フィリピンに移るのです。日本に戻るべきではないでしょう。これからの30年間は、財的資産よりも、知的資産、人的資産を先行させて丁寧に蓄えていかなければならない時代なのです。

「知的資産」、美しい言葉だと思います。医療、医学というものはこれまで、一般の人にはわからないものと位置づけられてきました。医師の占有物として扱われてきたのです。医師でない人は医学を学んではいけないとする風潮がありました。
患者が医学を少し学んで診察室で話そうものなら、医師から「どうせわからないくせに」という目でみられてきたのです。はたして医学は本当に一般の人にわからないものでしょうか。私の経験上、けっしてそんなことはないと思います。学ぶべき場所と学ぶべき材料を手にすれば、たちまち必要な医学を身につけることができるものなのです。

医学を学びましょう。知的資産を蓄えるのです。医学の世界には学んで面白いこと、楽しいこと、役に立つことがたくさん埋もれているのです。自分の頭脳、精神のなかに資産を蓄え、次の時代に語り継いでいきましょう。
1980年代、価値観というものが実に多様化しました。晩婚化、離婚率の上昇、ブランド品の流行、・・・・・etc、すべて価値観の多様化にその因を発しています。多様化した価値観ですべてが理解できたのです。しかし、医療についてはどうでしょう。患者の立場から見るかぎり、医療体制というものは昔からの画一的な線を乗り越えていません。医学そのものは進歩し多様化したのに、一般の人からの医療、医学への取り組みはほとんど変わっていないのです。

医療の制度そのものも変わっていません。平均寿命50歳であった、戦後すぐの貧しい(?)時代に生まれた国民皆保険制度は、高齢化社会を迎えて、よりよい方向への変革の時期を迎えているはずなのです。それらを念頭に置き、本書は医療、医学をわかりやすく学んでいただき、医療に対する理解を深めていただき、そして、将来への医療体制の改善の端緒ともなるように配慮しました。全国民の医療に対する知的レベルの向上を目標とし、その上で、医療体制への国民の理解をいただき、高齢化社会に適応した、より素晴らしい医療体制を築いていかなければならないと思っております。

 皆様の知的資産の増加と日本の医療体制の改善を願いつつ、筆を置かせていただきます。

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