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月刊メディカルサロン「診断」

役得メリットと還流メリット掲載日2022年8月30日
月刊メディカルサロン9月号

はじめに

オリンピックの大会組織委員会の理事が、ある企業に対して、自己の権限で「ああしてあげるよ。こうしてあげるよ」の話を出し、それを行う中での役得メリット、還流メリットを得ていた話がマスコミに報道されました。そのメリットが違法なのか違法でないのかは別問題としても、日本国民はこの類の話にはもううんざりしていることと思います。

選手強化のための寄付として企業が支払った2億5千万円が、2つの会社を巡って実際に選手の強化目的で振り込まれたのが数千万円で、約2億円が中間搾取されていた話などは、未だにそのようなことをしていたのかと聞いてあきれるばかりです。

発展途上の国の「明日の食べ物さえない子供たちのために」の話に心を動かされて寄付した1万円のうち、最終的に子供たちに届くのは100円だよなどと聞きますが、まさにその類の話です。ある役職に就いた時に、その役職が持つ権限から得られるメリットを「役得メリット」、お金が動いていく際にその一部が権限者への収益となるように仕向けていくことを「還流メリット」と名付けて話を進めましよう。

私の経験談から

私が平成4年に四谷メディカルサロンを創業し、プライベートドクターシステムを運営する傍らダイエット指導のシステムを完成させた平成7年の頃、エステティック業界にそのシステムを持ち込もうという事業計画が誕生したことがありました。その時に、70社程度のエステ業者を取りまとめる某会社(A社)の代表取締役であるという男が私にささやきました。

「当社(A社)が70社からの集金を請け負うことにする。あなたの会社からの請求額は、集金代行の手数料を差し引いた上でこのようにしてほしい。A社からは期日までに必ずその全額を振り込む。そしてその半分を、コンサルタント料の名目で私が指定する○○社に振り込んでもらいたい」

請求額の半額は当方がもともと望んでいた金額であり、その男が代表取締役でもあったので自動的に承諾しましたが、その男が要求しているのは他でもない、還流メリットの話です。話している男はA社の代表取締役の名刺を持っていましたが、一時的な雇われ社長で、会社のオーナーは別の者だったのです。

私はその時にそのような話に初めて接しましたが、彼の口振りからは社会にはありふれた話のように思えました。その自己の秘密会社への還流を求めたその男が、その事業計画の実現のために尽力したのは間違いありません。だから、彼に役員報酬を支払うA社が、その尽力による収益を受けるのは当然ですが、まさかA社からはより多くを支払わせ、多く振り込んだ差額を別の会社に振り込むことを指定してくるパターンがあるとは思いませんでした。

彼が役員としてA社からいくらの報酬をもらっていたのかは知りませんが、
「俺はあの会社で役員になっているが、報酬は微々たるものだ。あんなちっぽけな報酬で役員を引き受けたのは、この役得を狙っていたからだ」
と思っているのかもしれません。大義名分に聞こえる言い訳などなんとでもできてしまいます。もしかすると、「あの会社から十分な役員報酬をもらっていた。しかし、俺はこの業界のおいしさを知ったので、何としても独立したかった。そのための資金が欲しかったのでそうさせてもらった。油断に付け込むのは当然のことで、脇が甘かったA社がいけないのだ」と開き直っているかもしれません。

この類の話の経験でもっとも思い出に残っているのは、厚労省に対するコンサルタントをしている集団が提案してきた、政府が進める「健康21」の事業において私のセミナーを推奨していこうという話でした。話を聞いていると、政府がそのために準備した金額と私が受け取る金額の間に莫大な差があります。政府がばらまくお金を巡り、それを中間搾取しようとする話には驚いたものです。国のお金の横取りの話には私は強い嫌悪感を抱き、その話はお断りしました。

権限を持てば何かの還流メリットを欲するという思いの源流は、もしかすると時代劇などで見られる「紀伊国屋、おぬしも悪よのう…」「ふ、ふ、ふ、お代官様こそ…」のやり取りに、嫌悪感ではなく逆に憧れを抱いたことかもしれません。

求められる体制の変革

銀座では相変わらず、企業の経営者や営業担当者らの接待の会が催されています。この接待があるから取引が成り立っていると大仰に語りますが、その内容は「賞賛し合う会」にすぎません。なぜそんな会があるかというと、会社が交際費としてその遊興費を肩代わりしてくれるからです。「給料を増やす。その代わり接待交際関連は自分の給料から捻出すること」という決まりにしてしまえば、増えた給料からこの支出を行うかというと、決して行わないだろうと思えます。つまり、本来は不要なのにその出費を他者が肩代わりしてくれるから、必要そうに装っているだけなのです。

日本の上層部は、その役得メリット、還流メリットに染まっています。その2つが日本の政治システムに蔓延しているのも、周知のことです。政府が国民から集めたお金を企業に配れば還流メリットがある、という固定観念から脱出できていません。戦後しばらくの時代は、企業を単位として経済成長を作り出さないと根本的に国の復興が成り立ちませんでした。しかし、今はすでに企業が力をつけて自力成長が可能な時代になっているのに、政治家は還流メリットを手放せないので、現状では企業への甘やかしにしかならないのに企業べのバラマキが止みません。基本体制の変革を進めなければいけないのです。

日本が抱える根深い問題

日本の政治家は、一人ひとりが持つ本来の任務の重さに比較して報酬が少ないように思えます。これは「役得メリット、還流メリットがあるから少なくていいじゃないの」という思いが底辺にあるからに思えます。

役得メリットと還流メリットを排除するのなら、まず政治家が正さなければいけません。日本の政治家が役得メリットと還流メリットの頂点に君臨していることは、ほとんどの国民が認識しています。旧統一教会の問題も、平たく言ってしまえば還流メリットの問題です。還流はお金だけではなく、選挙の手伝いや票そのものも還流メリットの一つなのです。

私が見ている限り、役得メリット、還流メリットを喜ぶのはほとんどが男性です。女性はなぜかその2つに対しては、ごく一部の女性以外は関心を持ちません。
となると、ふと思うことがあります。国会議員、地方議員の女性の割合の問題です。先進国で政治家の男女割合がよく語られます。女性政治家の割合が多いことは、役得メリット、還流メリットを求められない政治システムであることを示唆しているようにも思えます。

しかし、どこの社会でも、新しい分野を切り開くためには「清濁併せ呑む」ことができる人間が必要になります。それを前提として、次のステップでは、そのような人材に対する社会の処遇がどうあるべきかになります。具体的には、「どのような組織であるならそういう人材をトップに抱くべきである」「どういう組織は決して経営陣に入れてはいけない」などです。

新しい分野を切り開くために、その部分に寛大に構えた場合、後になって一人の者の責任にしていいのかいけないかの問題も現れます。

この分野に関しては、果てしない議論になるのです。

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