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風本流医療構造改革・論議編

その10「治療に使う薬の選択」

外来治療における医薬品の投与

通常は、何かの病的状態を訴えた患者が病院を訪ねます。「痛い」「かゆい」などの症状を持って来院する人もいれば、自覚症状はないけれども人間ドックなどで異常を指摘された患者も来ます。ときには、「そろそろ胃カメラをやってほしいのですが」というふうに、人間ドック代わりに病院を訪ねる人もいます。たいていは、どれもこれもひっくるめて健康保険を使って検査や治療をすすめます。

外来で治療するときには、医薬品を投与することが大半です。医薬品投与なしの治療はめったにありません。もちろん緊急手術を要するときなどは、医薬品投与云々以上の問題がありますが、この場合は外来治療ではなく入院治療になります。
投与される医薬品には、莫大な数の種類、薬名がありますが、大別すると長期間投与する薬か、短期間の投与で終了する薬かのどちらかになります。
風邪やインフルエンザ、膀胱炎などの感染症に対しては、一時的な短期間の治療で終了します。ケガ、捻挫などに対しても短期間の治療で終了です。高血圧や糖尿病、慢性肝炎などでは、長期間の継続投与になります。
胃潰瘍などは一時的な短期間の投薬で治りますが、その後も「念のために胃薬を長期間飲み続けてください」といわれることもあります。この投薬が本当に必要なのか、怪しいケースもあるのです。
心臓病では緊急な治療を必要とすることもありますが、その後は、再発を予防するために長期的に薬を飲み続けることもしばしばです。他にも、特殊な難病に対しては、様々な薬の投与が試みられます。

医師の完全主導権下の投薬

さて、飲んでいる薬をよく見てください。その薬を選択したのは誰ですか?99%以上の答えは、「担当医です」になることでしょう。この状態を医師の完全主導権下の投薬といいます。担当医は、投与する薬を自分ひとりの独自判断で決定しています。これは医師の処方権といわれるもので、もちろん、その前提として日ごろから医師はよく勉強しています。

ところで、ほとんどの患者は自分が飲んでいる薬の名前を覚えていません。自分が毎日飲んでいる、その薬の名前さえ言えないのです。何種類の薬を飲んでいるかさえ言えない人がしばしばです。
カルチェ、シャネル、フェラガモ・・・世の中には多数のブランドといわれる商品があります。それらに対しては、驚くべき記憶力を発揮している人たちが、自分が飲んでいる薬の名前は覚えられないのです。どんな薬を飲んでいるのかに対してあまり関心がないのかもしれません。当然、飲んでいる薬に対して、疑問を差し挟むこともありません。

医薬品が全額自己負担になったら・・・

診療現場では、よく説明不足が問題視されています。薬を出すときにまったく説明しないで、「では胃薬を出しておきましょう」「では風邪薬を出しておきましょう」という程度の話で投薬することがしばしばです。しかし、仮に、「胃の中にこのような病変がありますので、2方面からの治療のアプローチを考えて、「・・・だから、○○のタイプの薬と○○のタイプの薬を・・・」などと丁寧に説明しても、患者は覚えてくれていません。また、たいていの患者は何のコメントも発してくれません。一生懸命に説明しても、説明する甲斐が乏しいのです。
その薬が本当に必要なのか、あるいは本当に効いているのかさえもあまり関心はないようです。その原因は、医薬品費の大半が健康保険でまかなわれているからです。薬をたくさんもらえれば、得したような気分になったりもします。

もし、医薬品の全額が自費負担になったら、この診療現場の様相は一変します。あるいは、いったん全額を負担して、後に請求して返ってくるという仕組みにするだけでも一変するでしょう。ただし、製薬業界が大ダメージを受けるのは目に見えています。また、説明に追われることになる医師には多大な労力の追加負担になります。

診療現場を健康教育現場に

患者が飲むことになる薬を医師の独断で決めている、という状況に私は強い反発を感じていました。「薬を独断で定めて、その薬を後追いで説明する」という程度の医療では納得できなかったのです。病気の状態を懇切丁寧に教え、その病態を治療するための薬のラインナップを提示し患者側に選択してもらい、その選択に対してアドバイスを追加し、調整を加えていくという診療に私は取り組みました。四谷メディカルサロンの創業期からの取り組みです。
その結果、患者は見事に自分の選択権で薬を選択することができるようになりました。平成7年に上梓した私の著書「一億人の新健康管理バイブル」(講談社)には、「医師からもらう薬を指名する」という章を設けて、そのことを記載しています。

患者に選択してもらうためのキーは、その患者が抱える病態を上手に教えてあげることです。これは、説明というレベルを超えて、健康教育という範疇になるのです。その健康教育のためのツールを私は工夫して来ました。臨機応変にそのツールを利用しながら健康教育を実施します。診療現場は健康学習の現場になるのです。

日本の医療、その未来にあるべき姿

それを実施するための労力がどれほど大きいかを私はよく知っています。20分ぐらいの聞き取りの後、20分ぐらいはしゃべりっぱなしになり、その後さらに20分ぐらいは会話の応酬になります。一般の健康保険の診療で実施してください、というのは困難です。
しかし、日本の医療というものの未来像―未来にあるべき姿―を考えるなら、医薬品代を全額自己負担にして、「病態説明→医薬品ラインナップの提示→患者の選択→医師のアドバイスによる調整」という枠組みを診療現場に取り込むべきであると私は思います。

「診療現場を健康教育現場に」診療現場が取り組むべき枠組み

保険診療の現場でそれを実施するのが困難でしたら、ときには、メディカルサロン型クリニックにその仕事を委譲すればいいのです。医療社会を三分割した一方となるメディカルサロン型クリニックの出番です。メディカルサロン型クリニックは、もともと「健康教育」と「予想医学と先回り予防」を主な業務としています。医薬品を全額自己負担にすれば、自動的にこのような診療体制が出来上がると私は見ています。

さて、このような診療体制にすると医療社会の長年の課題であった薬価差益の問題に決着をつけることができます。薬価差益とは、医療機関が仕入れる薬の値段と、患者に提供するときの薬の値段差のことです。昔、医師会の首領といわれた武見太郎氏は、「薬価差益は医師の潜在的技術料である」と言い放ちましたが、その後も厚生労働省はこの薬価差益の問題を苦々しく思い、医師会も薬価差益に対する大義名分を立てにくく、結局、医薬分業という流れで解決しようとしてきました。

なぜ薬価差益が問題となるのか

なぜこのような問題が生ずるのかといえば、私の観点からみると、「医師の完全主導権下で投与される薬が決定されているからだ」と断言することができます。担当医が独断決裁下で患者への医薬品を決められるという現状があるから薬価差益が問題になるのです。患者がその薬の値段を知って選択するのならば、薬価差益問題はクローズアップされることはありません。「医薬品ラインナップの提示」の際に、薬の代金が併記されていれば、その医薬品価格も検討材料にして選択することができ、その医薬品代に対しても患者側の選択となるからです。
医師会や厚生労働省が薬価差益が云々と語るのは、診療現場での医薬品選択のシステムが未熟であるからに他なりません。

患者が支払う医薬品価格の設定

医薬品選択システムにおいて患者が支払う医薬品の設定は、仕入れに対して一定割合が上乗せされた金額、つまり薬価差益が医療機関の正々堂々たる収入として計上されることになります。この場合、重要なのは仕入原価率をあらゆる薬で統一することです。これは、担当医が患者に対して利益率の良い薬を選択するように誘導するのを避けるためです。医薬品の選択権を患者に移すことにより増える医師の多大な追加労力に対しては、この薬価差益で補うことが可能になります。

医薬品選択システムがもたらすメリット

この医薬品選択システムは、医薬品代の全額自費負担が前提となりますが、こうなると必ず「医薬品代を支払えない人はどうなるのだ」という声が上がります。
しかし、医療費の自己負担分が支払えない人に対しては、すでに会計不要の国営病院があり、当該患者はそこに通院していることになりますので、「支払えない人はどうするのだ」という疑問は最初から消失しています。
また、医薬品を全額自己負担にすると、患者の総負担が増えるのではないかという指摘が出るかもしれません。しかし、そうではないのです。
その以前に健康保険制度が改定され、自己負担できない患者、自己負担させるべきでない患者は、その大半が別財源の国営病院に通院しており、この対象から外されています。これらの患者は別財源にされていますので、現役世代の健康保険の掛け金が激減しています。
つまり、現役世代の外来治療における医薬品代は多少高くなりますが、毎月の健康保険の掛け金が先に減っているという状況を作れるのです。しかも、医薬品を患者の選択にすると投与される医薬品の総量も激減します。

ちなみに、今の国民皆保険により現役世代から集められた医療費の40%は高齢者医療への拠出金となっており、20%が医薬品代となっています(この二つは大部分が重複している)。それらが差し引かれる分、健康保険の掛け金は減っているのです。

医療サービス内容の充実化へ

医療機関を「健康保険の掛け金と一定割合の自己負担分で成り立つ従来型の医療機関」「別財源で運営される会計不要の国営病院(利用者限定)」「健康保険を使えない医療を扱うメディカルサロン型クリニック」に分類すると、会計不要の国営病院に通院することになる人以外は、医薬品代を全額自己負担にすることにより、医療サービスの内容を極端に濃くすることが可能になるのです。

医療サービス内容の充実化へ

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