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月刊メディカルサロン「診断」

診療現場のイノベーション掲載日2019年3月2日
月刊メディカルサロン4月号

40年前の街並みと今の街並みの決定的な違いは、コンビニエンスストアの存在です。
昔は買い物をするために、近所の「○○屋さん」によく行ったものです。文房具屋さん、薬屋さん、魚屋さん、雑貨屋さん、漬物屋さん、野菜屋さんなどです。食料品を買うときには、スーパーマーケットに行ったものです。また、駅前には商店街があり、たくさんの店が並んでいて、各店舗にそれぞれの商品が売られていたものです。高級品を買いたいときは、デパートに行きました。

コンビニエンスストアが目につくようになったのは、私が大学生になるちょっと前くらいからですから、37~38年くらい前からでしょうか。私が東京に来たときに、ニコマート(だったかな?)が、近所に存在しました。その向かいに雑貨屋があったのを覚えています。
私が大学在学中に、コンビニエンスストアはとんでもなく増えていきました。日常生活で何か必要となれば、コンビニエンスストアに行けば、たいていは手に入るようになりました。
私が大学を卒業する少し前のころ、今から32~33年前のことです。昔からあった近所の雑貨商品中心の、「あるスーパーマーケット」には入店するお客さんが激減していましたが、そのスーパーマーケットが、店の前に、「この街に奉仕して50年」という看板を挙げるようになりました。長年来てくれていたお客さんがまったく来なくなったのでしょう。社会の進歩というか、成長というか、その裏に潜む悲哀のようなものを感じ取り、涙がこみあげてくる思いに憑かれたものです。
その後も、その流れは止まりません。商店街はシャッター街となり、デパートは権威を低下させ、アウトレットモールに大勢の人が集まっています。アウトレットなど、私の学生時代には、まったく存在しないものでした。
そのように、ものの在り方や、ものの考え方、技術が導入されて、様子が変わっていく姿をイノベーションと言います。30~40年前と比較すると、生活周辺は激変しています。情報工学=ITの技術の生活導入も、イノベーションの中心を担っているようです。社会の姿の代わりように、とにかく驚きます。

私は医療社会に身を置いていますので、医療社会のイノベーションに関して思いを巡らせることになります。40年前と比較してみると・・・。
検診や人間ドックの施設は増えました。平成の不動産バブルを境に、健康意識が高まり、健康状態をチェックするという施設は増えたのです。MRIによる脳ドックやPET-CTなど、検査機器の進歩に伴い、個別チェックを目的として検診も増えました。医療施設はわずかに多様化したように思います。
内視鏡の技術が高まり、内視鏡下での手術が増えました。手術ロボットなども登場し、科学技術の進歩を背景として治療技術はとんでもなく進歩したように見えます。カテーテル技術の進歩も同様です。
IT技術の進歩の恩恵を受けて、写真やフィルムは小さなディスクに収めることもできるようになりました。電送により遠方で検査結果を診断することもできるようになっています。その辺にはイノベーションを感じます。

しかし、医師と患者が接する最前線現場の様態はどうでしょうか? 何の進歩もみられていないように見えます。患者を丸椅子に座らせて、医師と患者が向かい合う姿に何の進歩もないのです。また、病気になり、その治療のために医療機関を訪ねるという姿も変わっていません。セカンドオピニオンが拡大することもありませんでした。
ここ40年の間に、世間では、健康維持増進のために、サプリメントが市場規模を急拡大させました。健康問題の解決策としてサプリメントが登場し民衆の生活に幅広く取り入れられたのに、医療、健康、人体のプロである医師の介在しないところで、その拡大はなされました。
つまり、医療社会においては、大病院中心に、施設、設備、機器、医薬品にはそれなりのイノベーションがありましたが、医師と患者が接する最前線診療現場にイノベーションが存在していないのです。それは、同時に、街中の小規模な診療所、クリニックの存在意義が変化していないことを意味しています。健康保険の恩恵のもとに存在しているに過ぎない状態から脱却できていません。コンビニエンスストアのような、街中の小規模な小売店舗に現れたようなイノベーションが見られないのです。
医療最前線現場の小規模なクリニック、診療所にも、イノベーションのチャンスはありました。サプリメント市場の拡大を取り込むというチャンスでした。サプリメントは栄養素であり、それを指導することに関して、医師が主導権を発揮すれば、サプリメントの購入のために、近所のクリニックに行く、というイノベーションを成し遂げることができたはずなのです。
私は自分自身の生涯テーマの中に、「医療構造改革の実現」を掲げています。街中の診療所、クリニックの存在形態に革命的な改革をもたらすべきである、という思いを含んでいます。

医療というものを、俗世間とかけ離れた神秘性のあるもの、高貴性のあるもの、権威性のあるものにするのは、専門性で分化した大病院だけで十分です。
街中のクリニックは、サプリメントを購入するためだけでも訪れられるような、もっと近所の人すべてに親しみを持ってもらえるような医療社会へと変貌させるイノベーションを私はイメージしています。

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