月刊メディカルサロン「診断」
糖尿病に思うこと月刊メディカルサロン2005年7月号
患者が来院しない理由は
医者になりたてのころ、私は一時期、慶応病院で糖尿病患者の外来のお手伝いをしました。もともと私自身、自分の一族に糖尿病患者が多かったので、医学部の学生時代にも済生会中央病院などに通って糖尿病の研究の一助をさせていただいたりもしていました。そんなわけで、糖尿病とは因縁浅からぬ仲なのです。
午前の糖尿病外来には1つの診察室に30人前後の予約が入っています。外来終了時に残りのカルテを見ると、2~3部残っています。つまり予約しているのに外来しなかった患者さんが2~3人いるということです。
診療現場では、来院しなかった患者さんは無視します。しかし、私には無視できない本能が働きます。医師としては、まずありえない行為ですが、来院しなかった人に電話をかけたりしてみます。
「ああ、生前はたいへんお世話になりました。実は2週間前に心筋梗塞で逝去しました」という返事が何気なく返ってきたりします。聞いた当方は、「えっ」という気分です。つい1ヶ月前には元気そうに来院していた患者さんがもう亡くなっているのです。
「わざわざお電話ありがとうございます。夫は脳梗塞を起こして、今は○○病院でリハビリが始まったところです」という返事が返ってくることもあります。あっけなく脳梗塞を起こして半身不随になっているのです。
それにしても医療機関どうしの連携というのは冷えているもので、入院先の病院から「そちらに糖尿病で通院していた○○さんが、当院に入院しました」などという連絡はまずありません。そんな中で、糖尿病患者はあっけなく心筋梗塞や脳梗塞を起こしてしまう、という医学常識が着実に現実のものになっているのです。
「糖尿病」という病気は、ある意味で「予防医学の結晶」です。自覚症状が乏しいので、「あなたは糖尿病です」といわれるだけでは、ぴんと来ないことがしばしばです。しかし、それは「予想医学上、あなたの身体は近年、確実にこのような病気(失明、腎症、心筋梗塞、脳梗塞など)を発症しますよ」ということを予言してくれています(この「予言」に相当するものは、予防医学の中にはたくさんあるのです。NK活性、アラキドン酸体質、高血圧、各種遺伝子検査の結果などは、すべて予想医学上の予言に当たります)。
糖尿病治療には職業上の条件がある!?
さて、では糖尿病患者はどのように治療されているのでしょうか?困ったことに病院で指導する治療方法は、「患者が一般のサラリーマンであること」を前提としています。患者が「夜の仕事をしているのですが」と相談すれば、「それは糖尿病にはよくないですね。その仕事はやめてください」などと平気で語る医師がいます。「社長業をしているので夜の飲食は欠かせない」とアピールしても「できるだけ控えてください」といわれるだけです。
人それぞれ生活信条と生活スタイルがあります。それらを守った上で糖尿病治療に取り組むのなら、「自力で治療していく。医師はあくまでアドバイザーに過ぎない」という心構えが必要です。