月刊メディカルサロン「診断」
貧困の成因月刊メディカルサロン2009年11月号
日本の貧困率15.7%という数字がやたらと目につきます。一億総中流階級意識といわれた時代から、わずか二十数年ですが、まさに隔世の感があります。今までの政治は、貧困者に対しては、「努力しなかったお前が悪い」という路線を貫いていたような気がします。シンボル的に報道された麻生前総理と失業者との面談、カウンセリングの内容がそれを物語っています。
貧困にならないように本人達が過去にどのような心構えをもって、どれくらい努力しているかは、私にはよくわかりません。その件は別問題として、今回は、本人の努力の問題ではなく、社会構造的に貧困が生じる下地が存在するとしたなら、それがどのようなものであるかを考えてみたいと思います。
第一に挙げたいのは、核家族化の進行です。地方から出てきて都会で生活する、あるいは都会の親から分化して独自の生活拠点を作るには、莫大な生活基礎資金が必要です。小家族単位で生活する基礎出費(家具、家電製品、住居、食費など)は大家族で生活するよりも、1人あたりではるかに多くの出費を強いられます。社会人となった最初の10年に貯蓄をつくれるかどうかがその後の人生を決めるといっても過言でなく、生活基礎出費が多くかかるというのは痛手です。なぜ、核家族化が進行したのでしょうか。その件に関しては、今までの政権の施政方針だったといわざるを得ません。
いろいろな法律を細かく分析すると、核家族化を奨励する方向性で法制度が展開されています。基礎出費が多くかかるということは、逆に考えれば、核家族化させたほうが総需要は伸びるので、建設業界、不動産業界、電器業界などを盛り上げていきたい政府方針の意向と合致したのです。核家族化の進行に歯止めをかける方向の法制度を一切つくらず、一方通行的に核家族化を奨励してきたのは、政治の問題点であったといえるかもしれません。また、核家族化させたほうが新聞などの販売部数も増えるので、マスコミが否定的見解を述べなかったことも後押ししました。
第二に挙げたいのが、クレジットカードの普及、つまり一般消費者に対する後払い制度の進行です。人は生まれてから、知的資産、人的資産、名声を蓄え、その結果として財的資産、つまりお金を得てその手元にたまったお金でその後の消費生活を楽しむ、というのが大原則です。クレジットカードの普及は、お金を得る前の出費を容易にしました。つまり、「無いお金」で容易に買い物ができる社会になったのです。この傾向は、知的資産、人的資産、名声の大切さを忘れさせる傾向を作り出しました。しかも、政治は大問題化するまで「無いお金を使う」に関して、一方通行的に奨励してきました。無いお金を使わせると経済規模は膨大に膨らみますから、企業保護の観点から政府はその方針ですすめてきたのでしょう。業界との癒着があったのかどうかまでは、私は知りません。
第三に挙げたいのが、婚姻制度の改良の遅延です。明治維新以来、富国強兵政策を遂行するための子育て拠点という観点で、日本の婚姻に関する法制度が整備されてきました。今の法制度のままでは離婚後の貧困に対する対策が皆無的といえます。この点に関しても、今までの政権は「離婚したあなたが悪い」という路線を貫いてきました。今後の修正は論点になることでしょう。
第四に挙げたいのは、思想・信条教育の基本部分です。努力と工夫を繰りかえす人生を営んでゆき、最終段階で得られるものが「ゆとり」です。つまり、人は将来のゆとりを目指して、若いときからひたすら努力するのです。近年の教育は、「生まれながらにしてゆとりがなければいけない」という方針になっていました。この方針が、社会に飛び立つ人々の心に葛藤を生み出し、苦しみの端緒になっているような気がします。
第五、第六と皆さんでいろいろ考えてみてください。貧困こそが、社会事件の根源です。「政治に問題があるから貧困が生まれた」と定義することで、今後の政治のあり方を深く検討していくことができるのです。