月刊メディカルサロン「診断」
健康管理学の体系作りと専門指導医の育成月刊メディカルサロン1996年6月号
従来の医療は、病気になった人を診療室に迎えるところから始まります。
「診療を行ってその病名を推測し、検査で確定させ、治療方法を考え、その治療を施し、治療の成果を確認する」
それがこれまで進歩してきた医学の中身です。
病的状態を訴える人を迎えるところから展開される医療は、どの医者もよくトレーニングを積んでおり、なかなか熟達しています。この従来の医療は、私の印象では、受験時代によく経験した「試験問題を解く」というタイプのように思えます。
今後の医療が目指さなければならない分野として、病気になる確率を可能な限り低くし、長生き確率を高め、活力あふれる生活を営む方法を指導する医学が重要であると、私はいつも話しています。この分野の医療は一般に予防医学と言われていますが、私は敢えて「健康管理学」と名付け、その学問としての体系作りに全力を傾けています。この医学に従事するのは、決して易しいことではありません。今現在健康な人を指導するのですから、かえって難しいのです。例えるなら「試験問題を作る」というタイプのように思います。健康管理学の概念ができて、初めて医学的根拠のある正しい健康指導が可能になるのではないでしょうか。
一人の健康な人をみたときに、その人の身体を調べ、生活状況を吟味し、将来を予測した上での今後のことを指導できる医療を、早く成り立たせなければなりません。どのような点に着目し、どのように指導するべきか。相手に分からない医学用語は極力用いず、相手の医学への憧憬を深め、実際に役立つことを相手の社会生活の背景を十分に考慮して指導する。これらの素地となる学問が必要なのです。
交差点で出会いがしらの事故にあった。いくつの賠償請求先を連想できるか。アメリカでは最低5つは連想できないと一流の弁護士とは言えないそうです。健康管理を指導する医師もそれと同じです。あなたの健康状態をみた結果、あなたの長生き確率を高める指導内容を最低5つは、一気に連想できなければならないでしょう。健康管理学の体系をさらに完成に近付け、健康管理指導専門医を育てることが、今後のメディカルサロンの課題であると思っています。