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月刊メディカルサロン「診断」

「聞いてくれる」「教えてくれる」の価値月刊メディカルサロン2014年12月号

不満に潜んでいるもの

あるところに、神様と話す少女がいました。その少女に、自分のことを大いに話したら、神様のお告げがもらえるそうです。費用は20万円。ある人が、そのお告げをもらいに行き、20万円を喜んで支払いました。
その同じ人が病院を受診し、1万円を支払いました。今度は1万円の費用がかかったことに対し「高い」と不満を述べ怒っています。修練を積んだ医師への1万円が高く、少女への20万円は安い。考えてみると不思議な現象です。そこには、「医師は聞いてくれない」という問題が潜んでいます。
ある女性がエステサロンに行き、5万円、10万円を何食わぬ顔で支払っています。その人が病院を受診。1万円の費用がかかると知ると、「高い」といって不満を述べました。考えてみると不思議な現象です。そこには、「医師は満足させてくれない」という問題が潜んでいるのです。

大元はコミュニケーション不足

日本の国民医療費は年間40兆円近くに達しています。毎日、日本のあちこちで大量の医療サービスが求められ、医師は一生懸命にそのサービスを格安で提供しています。
一方で、受診者の不満も多く生まれています。その不満の大元を分析すると、「医師は聞いてくれない」「医師は教えてくれない」であるように思います。一言で言えば、コミュニケーション不足。これからわかることは、「聞いてくれる」「教えてくれる」が、大きな価値を持っているということです。

ある男との出会い

「教えてもらう」のは無料である、と一般人は思っています。ビジネスの現場では、「いろいろ教えてくれてよく分かった。で、あなたが売りたいものは何なのだ。この商品か?それはいくらだ」という落ちになるのが大半です。「教えてもらう」のは、商品の売買に付属するものでしかないと思っています。純粋に「教えてもらう」ことの価値が理解できていないのです。だから、セールストークしか聞いたことがないのに物知り気分になる人が多発します。

私がメディカルサロンを創業して5年目の頃、知人が言いました。
「私の懇意の知人で、○○社の編集長だった男がいる。先月からフリーになった。この男は、メディアの世界の裏表に精通している。今後、事業を成功させていくにあたって、風本先生自身がメディアの世界を熟知し、コントロールできるようになることは、大いに役立つ。この男を紹介する」。
その人と会って、私はピンと来るものを感じました。私はメディアの裏表を教えてもらい、ある雑誌社にメディカルサロンの記事を掲載してもらうよう依頼。そして、彼に多額の報酬を用意しました。
その報酬に面食らったのか、彼は本来なら墓場まで持ち込まなければいけないようなメディア業界の裏表まで教えてくれました。それを実践応用して、私はメディカルサロンの隆盛を築くことができたのです。

この話はストレートに、「教えてもらう」ということの価値の大きさを物語っています。「金銭を払って、メディア業界の裏表を教えてもらう」ことにより、普通なら絶対に成功させることができない内科領域の自由診療を成功させていくための知的思考という武器を得たのです。

知的資産こそが財産

身につけた知的資産こそ大きな財産です。日本社会は、本人が持つ知的資産の1つの表現形式である「学歴」でその人の未来がほぼ決まります。そのことを十分に悟っているのに、知的資産を軽んじていてはいけません。
知的資産こそが大きな資産であるのに、「何かを教えてもらうのに費用が発生するなど論外だ」という思想が蔓延しています。それが、他者との差別化を形成しています。
例えば、金融業界の裏表は金融業界で長年仕事した人しか精通していません。土木建設現場であれば、土木建設業界で長く仕事した人。これは、すべての業界において同じことです。
そして、この場合の「精通」とは、その業界を成り立たせる深奥の部分のことであり、本人が成功するかどうかの分岐部分でもあり、「あらゆる専門家は素人に対して詐欺的である」の格言を生み出す根源部分でもありますので、他人には決して語れないものです。
当然のことながら、健康、人体、医療に関しても同様のものが存在します。これらに関しても、「聞いてくれる」「教えてくれるが満足と納得を得るための大きな価値となります。

私にできて他の医師にできない理由

私が築いてきたメディカルサロンは、健康管理指導を標榜しています。「私が見ている限り、あなたは死にません。若々しいまま、ピンピン元気なまま、必ずや長生きさせてごらんに入れます」というプライベートドクターシステムを始まりとしています。
そして、検査を行って身体の未来像を予想し、その人独自の健康管理の手法を議論する予想医学カウンセリングを生み出しました。その過程では、ダイエット指導、容姿、体力、意欲の回復指導、子供の成長に関する医療(背を伸ばす、記憶力を高める)などが誕生したのです。
仮に、同じような診療メニューを他の医師が真似ても、絶対に成功できません。なぜなら、そこには、日本の医療制度で育った医師が潜在的に持ってしまう絶対的な弱点があるからです。
その弱点とは、どの医師も決して「聞いてあげる」「教えてあげる」に集中力を発揮できないこと。日本の医療制度は、患者自身が費用をほとんど負担せずに、医療サービスを受けられるという制度であり、そこから生まれる医師側の「ある驕り」が根強いのです。
一言で言うなら、「教えない、知らせない、学ばせない。その上で頼らせる」。これらを患者との接点における基本方針にしても患者はついてくるものだ、と思っている驕りです。これが根底にある限り、有識者層にはいつまでも医療サービスに対する不満はつきまといます。
健康保険制度がなくなれば、そんな方針を持つ医師には誰一人としてついてこないことでしょう。だから、私は自由診療を営むにあたって、ことあるごとに「医師と患者の豊富なコミュニケーションを土台として」と語ってました。この豊富なコミュニケーションというのが、「聞いてあげる」「教えてあげる」なのです。

メディカルサロンスピリット

健康保険制度を扱わないメディカルサロンが、創業以来二十数年を経過してさらに飛躍の芽を持っているのは、診療メニューの問題ではなく、医師が「聞いてあげる」「教えてあげる」に全集中力を発揮して、地道な診療現場を営んできたからです。そして、その価値の分かる人が集まってくれたおかげに他なりません。

健康保険制度下の医療では、「聞いてあげる」「教えてあげる」の医療に取り組もうとする医師は誕生しません。しかし、健康保険制度というのはそれでいいのです。この制度にそれらを期待するのには限界があります。
その限界を超えたところに、私が創設してきた医療の真髄があると思っています。知的欲求を満たせない健康保険制度下の医療が続く限り、私は「聞いてくれる」「教えてくれる」を土台とした健康管理指導の道を貫き通すつもりです。

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