月刊メディカルサロン「診断」
今後10年の世相は明るい月刊メディカルサロン2015年2月号
日本の大変貌を解く
ここ2年、日本社会は劇的な変貌を遂げました。日常のことですので、ピンとこないかもしれませんが、無血革命が起こったといっていいくらいの大変貌です。そして、それは若者にとっての極めて明るい兆しです。
日本が抱える最大の問題は、1000兆円を超える政府負債ではなく、高齢化社会を迎えて、国家維持のために現役世代の負担がやたらと増えることです。国政選挙で「現役世代の負担を減らそう」という掛け声を上げると、それは投票の主体層である高齢者の負担増を意味しますので、高齢者の票を失い、結果的に政権を失います。
だから、「現役世代の負担減」を訴えることなく、そして高齢者層の反発を招くことなく、それでいて現役世代の負担減、高齢者層の負担増を進めなければいけません。「蛙(かえる)の釜茹で論」式の手法が要求され、まるでマジックショーのような展開が求められますが、それを成功させてしまったのがここ2年の日本です。
今回は、その意図を説明してみようと思います。
今年は、戦後70年にあたります。戦後しばらくたった昭和30年頃、大卒初任給は1万円あまりに過ぎませんでした。それが、昭和60年前には20万円を超えています。
昭和40年頃、毎月1万円を返済する住宅ローンは大変な重みでした。しかし、固定額で返済し続けていたその1万円は、それから10年余り経過した昭和50年代には毎月の返済が面倒になり、借入残高を一括返済したくなる気分になっていました。つまり、昭和40年と昭和50年代の1万円では価値が極端に異なるのです。
これらの現象を総合して、貨幣価値の下落といいます。発展中の社会においては、「貨幣価値は必ず下落する」の法則があります。インフレ経済の結果ともいわれ、経済発展が見込まれるアジア圏の諸国においては、まだまだ貨幣価値は下落していきます。
貨幣価値の下落がもたらすもの
この「下落」という表現をネガティブなイメージとしてとらえてはいけません。「国債を償還できない(デフォルト)」などの際に見られる下落とは背景が違うのです。日常の社会における貨幣価値の緩やかな下落は、経済の発展、生活の豊かさの始まりを意味するのです。
貨幣価値の下落により徐々に価格が上昇していくもの、つまり、マイホームなどは「早めに欲しい」という心理が働きます。
貨幣価値の下落を妨げるのは、需給バランスです。早めに欲しいという心理が伴わなければ、マイホームや株を欲しいと思いません。となると、ますます需給バランスは崩れます。バブル崩壊後20年の長い期間、需給バランスが崩れていた日本は、世界史上、稀なデフレ経済を歩みました。しかし、そのデフレ経済についに歯止めがかかりました。
円安、株高を引き金として、物価、給料、その他すべての価格が上昇し始めました。つまり、貨幣価値が下落し始めまたのです。年金資金を株式市場に投入するという決断も、強い意思の表れであり、勇気ある決断です。貨幣価値を下落させなければ、高齢化社会を迎えた日本はどっちみち財政的に破綻することになるのですから、当たり前の決断かもしれませんが、後世でコロンブスの卵とも表現されるべき価値ある決断です。
日本社会「これから10年」
となると・・・。今後10年の基礎的な傾向として、物価は50%アップ、給料も50%アップをイメージするのがいいことになります。
1ドル80円前後だった円ドル相場は、すでに50%変動。1ドル120円前後になっています。不動産価格は需給バランスが崩れない地域、つまり、都会部や人気エリア、駅近は、すでに50%アップに向かっています。やがて家賃も50%アップに向かうでしょう。
大卒初任給は30万円超に向かい、消費者物価は上昇の一途です。10年後には、国家の税収は、消費税のおかげも加わり50%以上アップします。
その一方で、ガス、水道、電力などの政府公定の価格は10~20%程度のアップにとどまります。エネルギー源の多様化が寄与して、原油価格、天然ガス価格が上がらないことが助けとなります。
政府公定価格で最も大きいのは医療費です。医療サービスに対しては保険点数制度を設けていますが、このアップ率を20%程度にとどめます。保険点数は政府の意志で決められるのでコントロールしやすいです。
年金の受給額は、もともと固定金額の約束になっているので、アップすることなく据え置くことになります。つまり、高齢化社会への対策が自然に解決するのです。まさに、「蛙の釜茹で」作戦です。
物価が50%アップすると申しましたが、物価の上昇が30%程度にとどまり、残りの20%に相当する分が物流総量のアップで補われれば、とんでもなく繁栄する国になります。ただし、貧富の差は拡大しますので、怠慢や無駄遣いには十分に気をつけなければいけません。
その結果、日本は高齢化社会の難題を乗り越えて、財政的に大いに栄える国家になっています。栄える国においては、子供はたくさん生まれ、少子化は解消されます(※1)。ここ2年のアベノミクスといわれる諸改革は、そこへの足場を間違いなく築いています。
案ずることなかれ・・・
リタイア層には苦痛かもしれませんが、不動産や投資信託の価格は50%アップしていますので、それらの財産を所有している人ならいいでしょう。悲惨なのは、年金収入のみを唯一の収入源としている、不動産、投資信託、株などの資産を持たない高齢者です。日本の未来のために、その高齢者には泣いてもらうことになります。しかし、そのとき日本は一大強盛国家になっていますので、生活保護などの最低限のセーフティネットワークは充実しているはずです。
円高に戻ることを危惧している人たちもいますが、その不安は不要です。すでに国民の預貯金からの国債購入が限界点に達している日本は、インフレにならなければ国債処理を外国に依存しなければいけなくなります。同時にそれは、高齢化社会における日本社会の破綻を意味し、その結果、デフォルトリスクを抱えることになります。すると、結局、円は安くなるのです。どちらに転んでも、もはや最終的な円高はありません。
すべては自然のダイナミクス
ここ2~3年の変化を「その以前の20年」に対する「反発エネルギー」と名づけるなら、その反発エネルギーは、小泉自民党、民主党の政権時代に潜在的に深く醸成されたように思います。それらを活かして起爆させたのが、安倍総理、猪瀬前都知事です。結果論的ですが、皆に素直に感謝したいものです。反発エネルギーこそがまさに革命の原資です。
しかし、そのすべては、ねずみの繁殖(※2)と同様の自然のダイナミクスといえるかもしれません。国民が勤勉で真面目で辛抱強く、優れた道徳観、倫理観を持っているなら、自然のダイナミクスの恩恵を、国家が満身で享受することができて当然なのです。