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月刊メディカルサロン「診断」

正社員とは何ぞや?月刊メディカルサロン2015年8月号

正社員と派遣社員 どう違う?

民主党が正社員を増やせ、と要求しました。それを受けて自民党は、財界にお願いする形式で正社員を増やしてくださいと要望したそうです。
企業が正社員を求めていて、そこに正社員にふさわしい人間がいるのなら、正社員にしているはずです。ここで私がいつも疑問に思うのは、「正社員と正社員でない者、どう違うの?」という問題です。
面接などで、「正社員と派遣社員、どう違うのですか?」と応募者に尋ねると、滑稽な回答が返ってきます。

「正社員は安定しているが、派遣社員は安定していない」
「正社員には期限の定めがないが、その他には期限の定めがある」
人によっては、
「正社員には、社会保険や福利厚生サービスが充実している」
さらに話を深めていくと、
「正社員で応募したのは、安定があるからです」
という話になってきます。

本当にそう思っているのでしょうか?勤務の形式の話ばかりになるのは本末転倒なのですが、悲しいことにほとんどの人がそのように答えます。正社員とその他の違い、特に生き様の違い、このシンプルなことが教育されていないのです。

派遣社員が生まれた背景

派遣という勤務形態はなぜ生まれたのでしょうか?そこから語っていくと答えが見えてきます。

高度経済成長時代は、就業者といえば正社員とパートがほとんどでした。新卒で入社する女性も、ほぼすべてが正社員でした。派遣という単語がなかったのですから、正社員しかなかったのです。
しかし、私の記憶ではバブル期にその様相が変わり始めました。「会社のために残業するなんて馬鹿らしい」「自己犠牲をしてまで、会社のために尽くすなんて意味がない」と広言する一群が誕生したのです。会社から甘やかされ、収入も多かったことから生まれた驕りが発祥原点です。
その者たちをターゲットとして、派遣という形態は誕生しました。当時はテレビ番組で、派遣社員たちの次のような言葉がよく報道されていました。

「会社のために忠誠を尽くすなんて、馬鹿な人たちだよねえ」
「定められた時間に、定められた労働内容を提供する。それ以上のことを考える必要なんてない」
「正社員なんて、時間のすべてを奪われて馬鹿な人たちですよ」

雇用形態を識別する3つの要素

今思えば、当時は女性の社会進出が未熟で、結婚、子育てのために退職するというのが通例でした。女性社員にとって会社というものが結婚するまでの「腰掛場所」の存在であったのは否めません。
そんな、結婚と同時に退職するという前提で就業していた人たちにとって、派遣というのは絶好の勤務形態だったのです。
当初は女性が中心でしたが、いつの間にか、男性もこの派遣形態を望むようになりました。その「心の中」は、正社員を続けている人たちとは明らかに異なっています。この「異なるもの」がまさに、正社員とその他の雇用形態の違いです。

正社員とその他の雇用形態の社員、両者を識別するのは、次の3つです。

  1. 忠誠心・・・会社のためにはある程度の自己犠牲をいとわない
  2. 従順性・・・会社の命令があれば、どんな業務でも、地の果てまででも
  3. 協調性・・・皆に見られている自分を意識して、協業できるように振る舞う

この3つを持つ人が正社員になり、正社員を続けることができるのです。どれか一つでも欠けていれば、正社員にはふさわしくありません。
「急な残業などできません」「残業は嫌です」「プライベートを犠牲にするなど論外です」と思う人は、「自己犠牲は嫌だ」の宣言であり、正社員にはふさわしくありません。
「こんな業務でなければ嫌です」と思う人は正社員にふさわしくありません。
「通勤する場所はここに限ります。転勤命令が出たら退職します」という人は正社員にふさわしくありません。
「自分は自分。自分のことだけやっていれば、文句を言われる筋合いはない」と思う人は正社員にふさわしくありません。

「正社員」は肩書きであり身分である

そして、もう一つ挙げるなら、会社の事業目的と自己の人生観との一致性です。「自分がこの世のために成し遂げたいと思うことを、会社を通じて実現していく」という思いのことです。
「正社員とはこのようなものです」をしっかりとイメージすると、正社員とその他の違いが明確にわかってきます。そこには、戦国時代における武士と足軽の違い以上の開きがあります。
逆に言えば、「私は○○社の正社員です」と語るのは、「自分は、忠誠心、従順性、協調性という点で優れた人間です」と語っているのと同じ意味を持つのです。
同時に、その会社の事業目的を通じて、自分の理想を世に実現していくことを望んでいることを意味するのです。

男女の雇用機会が均等になり、その法律もこなれてきたので、昔のような「正社員なのに腰かけ存在」というのは消滅させなければいけません。
「定められた時間に定められた業務だけ」を望む人が正社員を希望するのは本末転倒なので、そのような人は、契約社員、派遣社員を望めばいいのです。自分の人間性、人生観と待遇は直結して当然であり、恥じることではありません。

今や、「正社員です」と語れることが、自分の人間性を証明する肩書であり、重要な身分になっているのです。
そんな時代なのに、政府が、「正社員を増やしてほしい」と企業に要請するのが滑稽なのです。正社員を増やしたければ、「人の生きざまはこうあるべきだ」という日本の教育システムを改革すればいいのです。

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