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月刊メディカルサロン「診断」

2520億円は無駄遣いか?真の無駄遣いのありかを悟ってほしい月刊メディカルサロン2015年9月号

新国立球技場の建設中止から考える

総工費2520億円という見積金額が出された新国立競技場の建設が白紙撤回され、ゼロベースからの見直しとなりました。国威発揚の観点から私は楽しみにしていましたので残念です。
安保法案で支持率の急低下を招いた阿倍政権が、加速的低下を避けるためにとった、やむを得ない措置ですので、安保法案の副産物的要素となりますが、中止した気持ちを理解することはできます。

総工費予算305億円のつくば運動公園の賛否を問う住民投票の結果、80%の人が反対しました。こちらは、市長が経営する病院のひざ元に作ろうとする計画だったことも関与したのか、想像以上の大反対でした。
つくば市の場合は有識者が多く住む町ですので、国の補助金をもらって公共建設を行い、その多額の維持費のために、後に破たんした夕張市を思い出していたのかもしれません。
ふと、東京で準備、建設が進められていたのに、途中で頓挫した都市博覧会が思い出されます。あの時は、都市博の実施に反対する青島幸雄氏が知事に当選したので、中止宣言が出されました。この国には公費を出費する建設計画には、あまり吟味検討を深めないで、とにかく反対する国民癖があるのです。建設によりメリットを得る業界、業者に対する強い妬み、ひがみも関与しているのかもしれません。
「建設より、人に出費する。教育を充実させる」を謳って県知事に当選した人に、田中康夫氏がいました。田中氏を知事に頂いた長野県が、その後、どのようになったかの総括はなされていませんが、華々しい退任であったとは聞いていません。
「コンクリートから人へ」を謳った民主党政権が、国民を道連れにして悲惨な道を歩んだのは周知のとおりです。

総工費あれこれ

総工費2520億円と言えば、六本木ヒルズの総工費は約2700億円で、スカイツリーの総工費は650億円以上です。この両者は民間経営ですので、土俵が異なりますが、両者の建設に関して、事前に住民投票をしていればどうなったでしょうか?
恐らく、数々の反対論が噴出したことと思います。あるいは、電波関連のことでメディアにとって重要な建築物なので、住民の反対はメディアが抑えてくれたかもしれません。
また、横浜ランドマークタワーの総工費は2700億円、ディズニーシーの総工費3380億円も知っておきたい数字です。
約30年前に慶応病院の新棟が175億円で建設されました。当時の医学部長のスピーチで、「戦闘機1機200億円だ。たった175億円で東洋一の病院を建設し、大勢の命を救えるのだ」と語っていたのを思い出します。

2000億円以上がゴミ箱に捨てられている

「国費の無駄遣いだ」と叫んで国民は反対しています。「国費の元は俺たちが払った税金だ」というのが表裏一体の話になっています。では、その国民の一人ひとりは、日常の生活で公費の無駄遣いをしていないのでしょうか?実はとんでもない無駄遣いをしています。

検討したいのは、ごみ箱に捨てられていく残薬です。高齢者を中心に、病院に通っている人はたくさんの薬を処方され、飲み切ることができずに手元に余らせています。余っているのに、そのことを診察室で申告することができず、毎回、1か月分の薬を処方してもらっています。ついに余り過ぎてゴミ箱に直行します。
処方されたその薬は、一部の自己負担金を除いては、健康保険の掛け金と公費から支払われています。医療費約40兆円弱のうち、20兆円強が健康保険の掛け金徴収、2~3兆円が自己負担、残りの十数兆円が公費負担です。公費負担というのは税金からの補てんです。

医薬品の総額は、40兆円のうち6兆円強を占めます。ごみ箱に直行する残薬は、2000~3000億円と推定されます。何のことはない、国民の一人一人が医薬品を巡って、無駄遣いをしなければ、毎年公費が2000~3000億円ほど浮くことになるのです。毎年、1つずつ新国立競技場を建設することができます。

とんでもない無駄遣いをやめるには

診察室に入った時に、「先生、薬が3週間分余っていますので、今回は1週間分だけ処方してください」と話すことができないために、莫大な国家的損失をもたらしているのです。診察室で、たったその一言を言いだせない人たちが、「○○の建設は国費の無駄遣いだ」と一方では叫んでいるというのが、日本社会の現状です。

医療者側が意思をもって、診察室の前にたった一枚、「薬が余っている人は、遠慮せずに申告してください。今回の処方量で調整します」と書いた紙を貼り出せば、毎年、国立競技場を建設できるのです。
あるいは、コレステロールの薬に関して、厚労省が「コレステロールを薬で下げても、心筋梗塞を減らせるかどうかに大きな疑問がある。グレーなので、健康保険適応から除外する」と決断してしまえば、毎年3000億円が余ります。医療者と厚労省がその決断をするだけで、年に一つずつの国立競技場を建設できるのです。
これにより、辛い思いをするのは製薬会社です。製薬会社の立場を思いやって、医療者側、政府ともそのような決断はできません。国民が自ら申請するしかないのです。まさに自分たちの意思でできるのです。それができないのに「○○の建設反対」を声高に叫ぶことには、まったく筋が通っていないように思います。

貼り紙1枚で医療費は節減できる

医療費節減、それもすぐにできる「薬を手元に余らせないようにする」は、マスコミが特集を組めば、医療者側は渋々ながら実践し始めます。診察室の前に貼り紙一枚でけりはつくのです。
しかし、テレビはその特集を決して組みません。言うまでもなく、テレビ局にとって製薬会社は大きなスポンサーだからです。スポンサーの機嫌を損ねる番組を作れば、プロデューサーやディレクターの首が飛びます。自分の首を飛ばすような企画を立てる豪腕者はテレビ局には皆無です。

日本国全体を見渡した時に、改革し、改良しなければいけない急所がどこにあるか、わかっていただきたいものです。私は、そのようなことも含めて「健康教育が必要である。全国民の健康、医療、人体の知識の向上が不可欠である」と説いています。医療者側、政府筋からの強い迫害を受けながらも、強い意志をもって遂行しています。
医療費の無駄遣いをなくし、本来必要なところに特化集中した医療費構造にしたいものです。

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