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月刊メディカルサロン「診断」

移住議論「どこに住んでいるのですか」と尋ねられたら「日本」と答えてほしい掲載日2017年2月2日
月刊メディカルサロン3月号

「住む場所」について考えてみる

「引っ越し」と「移住」は、意味が異なるそうです。何かのテレビ番組でやっていましたが、引っ越しは住む場所を変えるだけで、移住は、生活スタイルごと変えることだそうです。その番組では、川一つ越えて、向こうの街(別の自治体)に移住すると、行政サービスが優れており、安心して子育てができるというストーリーでした。

ふと、子供のころに母が語っていたことを思い出しました。
「お母さんはな、将来は、お前たち4人の子供の家を3か月ごとに回って住もうと思っているんや。ずっと居続けると言われたら嫌がられるけど、期間を限定したら、嫌がられんですむやろ」
私は、この言葉から「期間を限定すれば、イヤなことにでも取り組める。我慢できる」という人間心理というか、本能のようなものを学び、以後の人生で何かと応用してきましたが、住む場所を変えていくという部分に注目したことはありませんでした。

セカンドライフは新たな土地で

私は伊豆半島でよくゴルフをします。早咲きの桜で有名な河津町の手前に稲取ゴルフクラブというゴルフ場があります。東南斜面に設計されたゴルフ場ですので、冬でも暖かいのが特徴です。毎年、河津桜の季節に訪れてプレーします。
そこのメンバーに知人ができました。リタイア後、伊豆に移住したという人が多くいます。

「東京のご自宅はどうしたのですか」と尋ねると、ほとんどの人は「売却した」または「賃貸ししている」と答えます。
「売却するときに未練はなかったですか」と尋ねると、「多少はあったけど、いつでも東京には遊びに行けるからね。子供たちがいなくなったから、夫婦二人では広すぎるし。ここにいると、孫たちが遊びに来たがるからちょうどいい」という答えが返ってきます。優雅に人生の晩年を楽しんでおられます。

いまどき国内移住事情

ちょっと調べてみてください。熱海、伊東から、伊豆高原、熱川、稲取あたりのエリアの不動産状況です。東京でマンションを購入して生活している人の金銭感覚では、びっくり仰天するほどの安い値段で、一戸建て別荘やリゾートマンションを購入できます。
しかも、たいてい温泉がついています。リゾートマンションなら屋内プール、屋外プール、フィットネスエリアも備わっています。毎日が、ハワイの高級ホテルで宿泊しているような気分になれるリゾートマンションもあります。「いつのまにこんなものが・・・」と驚きますが、一言でいえば、平成初期のバブル時代の産物です。バブルに感謝したい気分になります。
伊豆半島は、新幹線を使えばあっという間に東京に戻って来ることができます。確かに近いのです。移住したはずですが、「移住した」というほどの気分になっていないのかもしれません。

では、「沖縄ならどうなのか?」と考えてしまいます。沖縄には、新都心といわれるエリアや空港近くの海岸沿いにリゾートティックな高級マンションが続々と建設され、「移住、ウェルカム!!」を謳っています。さすがに沖縄に引っ越せば、「移住気分」になるでしょう。
東京の家を売り払えば、退路を断った気分にもなり、本格的な「移住」になります。東京には未練があるかもしれません。余裕があるなら、春、夏、秋、冬で、住まいを変えたいものです。東京で長年住んでいたら、こと不動産に関して、リゾート地の安さにはびっくりしますので、チャンスはたくさんあります。
そんなことを考えながら、ふと気が付いて愕然としました。
「何気ない母のあの一言が、私に強い自立心を育成したのかもしれない」ということです。兄弟4人が、それぞれ自分の家を持っていて当たり前、親の家に頼るのではなく、自分の家に親を住ませなさい、という発想が底辺にありますが、それこそが親への依存心から脱却させ、むしろ親を養うのだという自立心を養う一歩目の言葉だったのです。
このエッセイは、子育て中の両親もよく読んでいますので、参考にしてほしいものです。

「どこに住んでいても、同じ日本」

さて、私はかつて、日本中に17か所のメディカルサロンを開設していました。北は群馬県太田市、南は沖縄です。新幹線、飛行機で移動の日々でした。着替えなどの荷物を持ち歩くのが大変でしたので、各地に住居を構えることにしました。購入したマンションもありましたし、賃借りしたマンションもありました。
本拠の東京以外に、大阪、名古屋、広島、福岡、沖縄に生活拠点を設けました。日々、移動しながら生活しているうちに、「自分はどこに住んでいるのだろうか?」という不思議な気分にとらわれるようになりました。

そのころ、私はいつの間にか
「先生は、どちらにお住まいですか」と聞かれた時に
「日本」
と答えるようになっていました。「東京の四谷」や「大阪の難波」などという地名を答える気にはならなくなり、「日本に住んでいる」という明確な気分になっていたのです。自由に移動することができ、同じ日本語が通じるのに、狭い地域にこだわる必要など、まったくなくなっていたのです。この視野を持てるようになったことは、私の思考回路に大きな価値を与えてくれたように思います。

おわりに

土地に対する執着が社会問題化することがあります。人口が減ることによる空き家問題が勃発しています。過疎地問題は昔からあります。過疎地を維持するために、都会で働いている人からかなりの金銭を徴収しているのも事実です。
しかし、先祖伝来の土地に対する執着はあって当然です。大地が恵みを与えてくれるという思想もあります。血縁や「受恩と恩返し」の人間関係よりも、土地との関係を重視してきた日本の歴史もあります。日本という国土をどのように考えていくかに関して、新しい時代づくりが必要なように思えます。
合理的に考えるなら、「集中させると効率が高まる」に尽きますが、この問題がそんなに簡単でないことは言うまでもありません。

私は人間関係で悩んでいる人を見た時に、「死に別れない限り別れなし。お互いに生きているのに、悩む必要などない」という私の信条を、結論的なアドバイスとして送ることがありました。それと同様に、「どこに住んでいても、同じ日本。自由に移動できる。こだわる必要なし」というのを私の信条に加えるべきかどうか悩んでいます。

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