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月刊メディカルサロン「診断」

プライベートドクターシステムの普遍化に取り組むべきか?掲載日2018年11月1日
月刊メディカルサロン12月号

四谷メディカルサロン創業

平成4年、大学病院で内科外来を担当しているときに、私はプライベートドクターシステムを思いつき、四谷メディカルサロンを創業しました。
健康保険診療のシステムに不満、不納得はありましたが、直接の発端は「アメリカの内科医1万人がアスピリンを内服していたら、心筋梗塞の発症率が40%低下した」という医学論文に触れたことです。
「病気の人を治療する。その価格を公が設定し、その治療費の大半を公費で賄う」というのが、健康保険のシステムです。これに対して、「病気でない人が、病気にならないようにするために、積極的に予防医療を施していく」ということに強烈な新鮮味と将来性を感じ取りました。

そういえば、胃ガンの元凶であるピロリ菌を除菌すれば、胃ガン発症率は激減するということが、平成4年の当時にはすでにわかっていましたが、医療社会の諸事情により、健康保険制度では除菌することはできませんでした。しかし、健康保険を放棄すれば、除菌は可能です。ピロリ菌の除菌は、積極的な予防医療の範疇になり、これを行うことで胃ガンにかかる率をぐっと減らすことができます。
その当時、ビタミンC、ビタミンE、β-カロチンなどの抗酸化作用を有する栄養成分を積極的に摂取すれば、発ガン率が低下するかどうかなども、アメリカでは積極的に研究されていました。
それを背景として、私はやむにやまれぬ思いで四谷メディカルサロンを開設し、プライベートドクターシステムを始めたのでした。内科医が、人間ドック施設でパート勤務をすることはありますが、健康保険制度を捨てて開業するなど、当時、思いつく人はいませんでした。

創生期を振り返る

「私が見ている限り、あなたは死なない。ピンピン元気なまま、長生きさせてみせる」という思い入れを持ってスタートしましたが、当時の具体的な提供サービスは、アスピリンの利用やピロリ菌の除菌くらいしかありませんでした。それで一つのクリニック組織を運営できるほど、甘いものではありません。
病気でない人を対象とする前代未聞の医療事業のスタートですから、もともと明確な指針があったわけではなく、その人の健康を守っていくにはどうしたらいいだろうか、とひたすら念じ、考え続けるだけでした。どうしたらいいのかがはっきりしないから、とにかく「会員と医師との生涯の友誼関係」を土台として、何ができるかをそれから考えていこうという程度のものでした。
会員の身体を調べて、健康管理の指導をしているうちに、まず気づいたのは、知識面において会員と私がある程度一体化しなければ、本物の健康管理指導はできないぞ、ということでした。だから、運営を始めてすぐに、会員に対する家庭教師のような毎日になりました。「健康、人体、医療のことを話し合って、健康教育を施していく」という技量を磨くことになったのです。
しかし、診療施設を構えて、家庭教師業のようなことをしていても、施設と人員を維持できるほど世の中は甘いものではありません。夜な夜な他の病院の当直に出かけ、クリニックを必死の思いで維持したものです。

経営安定の契機

そんな危うい経営の潮目が変わったのが、「体重管理指導」という思い付きでした。健康保険診療では、「体重の減量を指導する」つまり「ダイエット指導」ということに健康保険点数が設定されていませんでした。だから、健康保険の診療現場では、「体重を落としなさい」と患者に語る医師はいても、具体的な体重の落とし方を指導できる医師はいなかったのです。
そういえば、ダイエット指導の手法を大学の医学部で学んだことはありませんでした。単純に消費エネルギーや摂取エネルギーの差し引きなどの原理を勉強する程度でした。「食べ物の種類による効率性」「摂取カロリーを減らすための具体的な方法」「加齢に伴い消費エネルギーが減るのはなぜか」「排便回数の体重への影響」「摂食物の腸内通過時間との関係」など、後にダイエット指導の上で、非常に重要になるテーマも、医学部の教科書や診療現場で学ぶことはありませんでした。
そこで、独自に体重管理学を創設し、ダイエット指導の大家になってやる、との意気込みで、一時期をその分野に特化集中させました。「体重管理は健康管理の基本」と盛んに謳い、来院者を募りました。
医療用の食欲抑制剤を利用できたこともあり、ダイエット指導は人気を得て、数年がかりでその診療体系を築き上げることができました。もう平成8~9年になっていましたが、ようやく経営的な安定を得ることができました。

予防医療体系の確立

ダイエット指導により経営の安定を得ると、不思議なことに、プライベートドクターシステムの会員がどんどん増えてきました。経営が不安そうに見えたときは、どんなに立派な理想を語っていても、会員になろうとする人は少数でした。
話を聞くだけで入会しなかった人が、経営が安定して、今後の継続性が見えてくると、続々と入会してくれるようになりました。ダイエット指導の収益による経営の安定性確保が、プライベートドクターシステムの会員を呼び寄せてくれたのです。
平成10~12年のころには、積極的な予防医療の実施に対して、それを受け入れてくれる大勢の会員ができました。プラセンタ注射、成長ホルモンによる容姿、体力、意欲の回復医療などは、そのバックボーンの中で大成されたのです。
以後、花粉症注射、遺伝子検査の採用、背を伸ばす医療の診療体系の創設など、会員の求めに応じて新しい診療システムを加え、現在に至っています。

オリジナルからスタンダードへ

内科領域の自由診療に関して、いろいろ語る医師を最近見かけるようになりました。「見よう見まね」で私と同じようなことを行おうとする医師も過去にたくさん見てきました。しかし、いつの間にか消滅してしまいます。経営の安定性を確保できるまで耐え抜くことができないのです。
プライベートドクターシステム的なことを語る医師がいますが、それを実際に行って成功させてきた私には、どの医師が語るのを聞いても、絵空事、空想論にすぎないことがわかります。この事業の成功のエッセンスは私にしか見えないのです。

プライベートドクターシステムのエッセンスの遂行は生半可ではないので、一代限りで消滅してもやむをえない、と私は思っていました。
しかし、なぜだかわかりませんが、最近は、一代限りで終わらせるのではなく、普遍化させ、普及させ、日本の医療のスタンダードの一つにしなければいけないという責務を感じだしています。そのためのシステム改良を企てるべきかな、という気分になってきています。

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