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月刊メディカルサロン「診断」

体調管理学の文章化掲載日2019年7月22日
月刊メディカルサロン9月号

病気にかかった人を治療するのは、医師の役割です。医師は、治療を遂行するために、診断学、治療学の学問を修めています。
病気にかからないようにして、「体調不良なく、90歳を超えるまで若々しいまま、ピンピン元気に生き抜く」ための学問は、健康管理学です。この学問は、医師の中だけの学問ではなく、むしろ、民衆に深く膾炙されるべきものと、私は思っています。

診断学・治療学

体調不良を感じて病院を受診すると、医師は「どんな病名であるか」を考えて検査をすすめます。そして、その病名に応じて治療をすすめます。診察して、病名を予想し、検査で病名を確定するのが診断学です。その病名に対して、治療の方法を考え、その治療を施し、治療の成果を確認するのが治療学です。
診断学、治療学において、病名は莫大な数で存在します。医師は、そのすべてを覚えなければいけませんので、学力優秀な若者を選抜して、医学部で特訓を施します。学力優秀な若者も勉学をすすめていけばいくほど、上、中、下が分類され、脱落傾向や志向性の分化が見られ、それを基に、医師の個性、得意分野を形成していきます。診断学、治療学はそれほど難しいのです。

健康管理学

一方、健康管理学は、民衆に普及されなければいけませんので、難しい内容にしてはいけません。体調不良をシンプルにまとめなければいけないのです。

私は、平成4年にクリニックを創業して以来、体調不良を訴える人とは、議論しあうことを最優先課題としてきました。
悩んでいる人の体調不良の内容の話を聞けば、瞬間的に、病名的なものは予想できてしまいます。そして、治療はこの手法だろうなというのも頭の中で展開されます。しかし、その結論的なものを語るのをぐっとこらえて、議論しあうことこそを最大テーマとしてきたのです。
通常の医師は、患者の話を聞いたら、さっさと検査、治療をすすめることを考えます。そのすすめ方にはきわめて合理性を追求します。さらに、たくさんの患者が待っていますので、スピードが重視されます。その過程においては、「患者の心をとらえていく」には執心しません。そんなことは時間の無駄と思ってしいます。
実際に、健康保険制度においては、「患者の心をとらえる」ということに対して点数化されていませんので、医師が軽視してしまうのもやむを得ません。「点数化していない」というのは、「料金が設定されていない」ということです。

体調不良の系統分類

合理的に検査、治療をすすめ、病名を確定させていこうとする医師とは裏腹に、患者は、「その体調不良の原因」を病名ではなく、「なぜ、そんな体調不良になったか」という日常生活における因果を求めています。因果応報という思想が根底にあるからかもしれません。ここに医師と患者の脳内チャンネルのギャップが存在しています。
その因果応報的なものに視点をあてて、体調不良を訴える人と議論をすすめるうちに、私の脳内には、体調不良の系統分類というものが形成されてきました。体調不良の訴えを聞いた時に、病名を連想するのではなく、因果応報的な観点を主体とした系統分類が、創業以来25年以上の歴史の中で、自然に形成されてきたのです。
前々回の「診断」で述べたのが、まさにその10系統の分類です。

  • 過体重系
    増えてしまった身体の重み、脂肪蓄積を原因とする
  • 体内調節系
    自律神経、ホルモン、免疫力、血液内容など無意識に調整されているメカニズムの失調を原因とする
  • 感染系
    菌、ウイルス、寄生虫、真菌(カビ)などの感染、体内常在を原因とする
  • 心因系
    脳内の多系統の化学反応の失調を原因とする
  • 外因系
    身体の中に潜んでいるというよりも、ケガや打撲など、身体の外から襲い掛かってきた原因によるもの。自分の意思で運動しすぎたことなども含む
  • 加齢系
    加齢に伴って自然に衰えていくものを原因とする
  • 体内異質物系
    体内に芽生えた異質物を原因とする。本来は存在しないもので、ガンなどだけでなく、結石、尿酸結晶、軟骨の突出、副伝導路なども含む
  • 血流不全系
    大血管から微小血管、毛細血管に至るまで、血流が十分に確保できないことを原因とする
  • 後遺症系
    脳梗塞や筋骨格系などのトラブルの後遺症を原因とする
  • 難病系
    現時点で、原因不明で治療手法も議論が分かれている、とされているもの

おわりに

「痛い」「痒い」「熱が出た」も体調不良ですし、「しんどい」「だるい」「便秘」「下痢」も体調不良です。そして、「頭がさえない」「やる気が出ない」「疲れやすい」も体調不良です。
何かの病気を原因とする体調不良は、因果応報的にはわずか10個の系統に整理されてしまうのです。何千個もの病名があっても、体調管理学的には、わずか10系統です。

体調不良を訴える人と長年議論する中で、私の脳内で培われたものを、今後は文章にしてまとめていきたいと思っています。

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