月刊メディカルサロン「診断」
フレイルを防げ掲載日2022年1月8日
月刊メディカルサロン1月号
片山虎之助さんの引退に際して
この原稿執筆の構想を練っている時、参議院議員の片山虎之助さんが病床に伏して、維新の会の代表を辞任し、参議院議員も辞職する、という話が伝わってきました。
私は片山虎之助さんに関して、特別な思い出があります。2005年の郵政民営化小泉改革の思い出です。郵政民営化法案は、最初は参議院において過半数を取れず、廃案になりかけました。そこで小泉元首相は、法案が参議院を通らなかっという理由で、衆議院を解散したのです。解散後の選挙で自民党は圧勝し、その勢いの前に屈して、郵政民営化法案は可決されました。あの選挙では、自民党のある議員が何人も除名され、その凄まじさは、強烈な思い出として残っています。
当時、参議院自民党の要職に片山虎之助さんがいました。法案を通すための最初の戦いに敗れた時の語り口が思い出に残っているのです。話の内容は記憶に残っていませんが、扇子で仰ぎながらの語り口調により、「大物議員の造反もあり、難しい戦いだった。しかし、やるべきことはやり尽くした。それでだめだったのだから悔いはない」という印象が伝わってきて、その真意はともかく、戦いに敗れた時の男の姿はこうあるべきだ、と心に残ったものです。
「衰え」は一つの病態
私は日本の企業を強靭化するためには、ベーシックインカムを導入し、解雇しやすくするべきだという主張を以前から持っていました。先日の衆院選で、維新の会が「ベーシックインカム」を挙げたので、「ありゃ」と思い、その代表である片山虎之助さんの言動や行動を見守ったものです。片山さんは86歳の高齢にもめげず、精力的に活動していました。
「フレイル」(後に説明)が蔓延する日本の高齢化社会で、晩年人生の在り方の模範になってほしいと私は願っていましたので、今回、病床に伏したのは、残念でなりません。
「命を守る。90歳を超えるまで生き抜いてもらう」を寿命管理といいますが、私はその医療ノウハウをプライベートドクターシステムの運営を通じて、育ててきました。私が片山さんを診ていれば、…と思うと、残念でなりません。
年をとったのだから当たり前・・・ではない
「年をとって、体が衰えて、弱ってきたなあ」という表現があります。具体的には、「意欲が低下し、物事に取り組むのが億劫(おっくう)になってきた」「動き回ろうという気力がなくなってきた」「階段や坂道ですぐに息切れするようになってきた」「転びそうになることが増えた」「頭脳明晰さが低下し、脳機能が低下してきた」「頭の回転が鈍くなった」「やる気が低下して、家で閉じこもりがちになってきた」という状態です。
「年をとったのだから当たり前だ」と思われてきたのですが、それを「やむを得ないもの」と諦めることに真っ先に異を唱えたのは、「プライベートドクターシステム」を創始し、「健康管理の学問化」を進めてきた私であったと思います。
20年以上も前、「健康管理とは何か」を語る際に、
「90歳を超えてても、頭脳明晰で、自分の足でどこにでも行けて、意欲高く、疲れを知らず、見た目の姿は50歳を実現することを目標として、取り組む諸行為である」
と定義し、
「健康管理には三態ある。寿命管理、体調管理、容姿管理である」
と述べてきましたが、「加齢とともに衰える」というのは、この中のまさに体調管理のことになります。
最近は医学界でも、この「衰えてきた状態」をやむを得ないものとして諦めるのではなく、「一つの病態である」ととらえて、その改善、治療をどうするべきかが検討されるようになってきました。そして、その「衰えた状態」のシンボル用語として「フレイル」という語が用いられるようになりました。この「衰えた状態」は加齢によってのみもたらされるのではなく、何かの病気がきっかけにもなります。したがって、触れるとは医学的には、
「加齢や疾患によって身体的、精神的な様々な機能が衰え、心身のストレスに脆弱になった状態」のことをいいます。
要するに、体力、知能、意欲が衰えた状態です。
フレイル発症の原因
このフレイルの発症に関して、実は、病院が原因になりがちです。何かの病気で入院して手術などを行って退院した後、たいていの人は「生気」を抜かれています。病院が「あなたの身体は、今後は衰えてダメになっていくのが当たり前」という洗脳をしてしまうのです。明るく健康的な未来をイメージさせると、そうならなかった時に、「あの時の治療がいけなかったからだ」と責められるのを恐れ、患者にあえて「暗い健康未来」を語り、責任から逃げることを企むのです。そのために退院した患者は、その洗脳から抜け出せず、新しいことに取り組むのが億劫になり、「俺の人生は、もうこんなものでしょうがない」という諦めが芽生え、意欲の低下がまず進行します。
プライベートドクターシステムにおいては、会員が何かの病気でどこかの病院に入院した際は、セカンドドクターとして見守りますが、退院した後の面会では、急激に意欲低下している姿になっていることをしばしば経験します。病院側は、自己の保身のために患者への「脅し」をかけることに対して、それでいいのかどうかを考え直さなければいけないように思います。
また、高齢者の糖尿病に関して、脅し過ぎるように思います。糖尿病は、目先の異常高血糖による糖尿病性昏睡、そして、心筋梗塞・脳梗塞を防止することは重要ですが、その可能性を解決できれば、あくまで10年後、20年後の合併症を防止することが最大目的です。75歳で糖尿病を発症した人に厳しい食事制限が必要かどうかをまじめに考えなければいけません。厳しい食制限のために人生の喜びを失い、栄養も低下し、フレイル化する人も後を絶っていないように思います。
フレイル対策━私の研究から
私はかねてからこのフレイルの対策を考え、研究を進めてきました。
1.グルコサミンの常用
軟骨原料を補給することで、軟骨の実体であるグルコサミノグリカンの合成を促進させます。軟骨の衰え、関節の痛みのために動きづらくなる「ロコモティブシンドローム」発症をシンプルに予防することを念頭に置かなければいけません。
2.衰えを感じた時の成長ホルモンの早期利用(舌下投与スプレー)
意欲が低下した時は、成長ホルモンの舌下投与スプレーが圧倒的に有用です。ポジティブになり、積極的になり、物事が億劫でなくなって、活動的になります。
3.筋力増強剤の周期的利用
プリモボランは単刀直入に筋力を増強させます。長期の入院で全身衰弱した患者に用いることがありますが、そんな利用以前に、日常的に3~6ヶ月に2週間ほど内服して、「筋力増強週間」を設けることには、価値があります。
4.脳血流を維持するEPA体質
食生活の欧米化に伴い、血液中のEPA濃度が低下します。EPAとは、青魚の脂分に多く含まれる脂肪酸の一種です。血中EPA濃度が低下すると赤血球の変形能力が低下し、脳への酸素供給が低下します。EPA濃度が高い体質は、脳機能維持に必須であると考えています。
5.周期的な抗生剤の内服
歯槽周囲の問題から、食べる楽しみを失い、フレイルが進行することがあります。歯槽周囲の問題をクリアするために、数ヶ月のうち5日くらいの抗生剤内服を行うことの有用性を研究しています。
6.軽い心不全治療薬の利用
心臓の筋肉の収縮力の低下が、息切れの原因になり、活動意欲の低下に連動します。副作用の不安が乏しいノイキノンという薬を利用すると、この解決となります。
私はこのフレイル対策に関して、多面的に研究活動を行っています。