月刊メディカルサロン「診断」
今思えば、学生時代に取り組んで役に立ったこと・・・後編掲載日2022年12月26日
月刊メディカルサロン1月号
ゴルフ
小学校3~4年生の頃、ボウリングが流行していました。そして、近所にボウリング場がありました。そのボウリング場の中に、屋内ゴルフがありました。スクリーンにはゴルフコースの景色が映っています。そのスクリーンに向かってショットすると、画面が20ヤードずつパシャパシャッと前進して、ボールが届いたはずの地点まで移動するのです。今ならあちこちにそのような練習場がありますが、実は、私が小学校4年生、つまり昭和48年の時点でその原型となるシステムは存在したのです。
ある日、父とその友人がそこでゴルフをしていました。打ちっぱなしではなく、ラウンドしていることになります。力強くショットして、仲間内で「ナイスショット」と叫び合っています。それを見ながら私も打ってみたくてうずうずしていましたが、打たせてもらえません。1ラウンド終了しました。そこで私は、「僕も打たせて」と声かけしました。「よし、一発打ってみな」と言われ、どんなクラブを握ったのか覚えていませんが、とりあえずボールを置いて一振りしました。クラブヘッドはボールにかすり、ちょろちょろと転がりました。当時私は小学生の中でも球技には自信があった方でしたので、「あれ、なんで?」という気分でした。横から声がかかりました。「左肘をまっすぐにして打ちな」。言われたとおりにしてみました。やはり、思うように打てません。さっきまで父らは簡単そうに打っていたのに、悔しくてなりません。そして、数発打った後のことでした。
タイミングよく当たったのか、バシッと気持ちのいい音を残して、スクリーンの真ん中に一閃の筋を残してボールが勢いよく当たったのです。スクリーンはカシャカシャと動き、100ヤード地点まで動きました。「やったー」と叫んでもう一発打とうとしたら、店員が駆けつけてきました。「カウントしているからプレーヤー以外は打ってはいけません」。せっかくいい当たりをしたのだからどうしてももう一発打ちたかったのですが、そこで終わりになりました。以後、バシッと打った一発の手応えが忘れられません。そして、最後に打ったのがいい当たりでしたから、良い思い出として残りました。
大学生になった時、その手応えが忘れられなくゴルフ部に入部することになりました。医師になって4年目にプライベートドクターシステムを創始しましたが、ゴルフ関連で知り合った人が会員の多くをしめていたと言っても過言ではありません。
幼少時のほんの数分の思い出が未来に繋がったのだなあと思い、その機会を与えてくれたあの瞬間に感謝する気持ちが時々湧いてきます。子供には何かと機会を与えるべきなのかもしれません。
読書
中学1~2年生の頃、従兄弟の家に遊びに行った際に、横山光輝氏のコミック「三国志」がありました。それを見ながら私はなぜかストーリーをすらすらと語ることができました。従兄弟たちはびっくりしていました。あまりに皆がびっくりするので、私はいい気になって三国志の全ストーリーを語って聞かせました。「知っていることを語って聞かせて教えてあげる」ことの快感を知ったのはその時でした。
私はなぜ三国志のストーリーを知っていたのでしょうか?実は、小学校4年生から6年生の頃、自宅に「こども名作全集」全50巻があり、その中の一冊が「三国志」だったのです。この全50巻がどのような経緯で我が家にあったのかは知りません。おそらく母が購入したのだろうとは思っています。
この50巻のうち、ほとんどは最初の30~40ページを読んだだけでした。面白くないと思って、その先を読む気にならなかったのです。今の私の記憶に残っている中では、「若草物語」や「あしながおじさん」は何が面白いのかさっぱりわかりませんでした。「アンデルセン物語」「小公子」なども全く面白くありませんでした。読むのを途中でやめても、「最後まで読みなさい」と叱られなかったのが幸いでした。
「十五少年漂流記」「宝島」は、ワクワクしながら一生懸命に読んだ覚えがあります。「ロビンフッドの冒険」「トムソーヤーの冒険」「ガリバー旅行記」などは最後まで読みました。私も通常の少年と同じく、冒険ものが好きな少年だったのでしょう。
「フランダースの犬」で大泣きしたのは、皆と同じだと思います。「家なき少女」は、苦しみの先に出会える夢や希望に何かを感じたのか、かなり一生懸命に読みました。
ストーリーの不可解さで記憶に残っていたのが、「宇宙戦争」です。宇宙人が地球(イギリス)に攻め寄せてきてイギリスをほぼ全滅状態に追い込むのですが、あと少しというところで地球に存在した微生物のために宇宙人は自ら全滅してしまう、というストーリーです。新型コロナが蔓延した時に私が真っ先に思い出したのは、小学校時代に読んだ「宇宙戦争」でした。
大ハマリしたのが、「源義経」「三国志」「大閤記」でした。繰り返し繰り返し何度も何度も読んだものです。いわゆる精読です。それらのストーリーのキーワードは、流浪、苦境、出世、征服、天下統一です。子供の頃の潜在心理、志向性を反映していたのかもしれません。あの頃、夜に眠りにつく直前は読書でした。
「こども名作全集」の三国志に端を発して、中学生、高校生の頃は吉川英治氏の「三国志」を精読し、そこから派生して、高校生の頃は兵法書をよく読みました。「六韜三略」「孫子の兵法」を購入して読んでいましたが、その頃、司馬遼太郎氏の「項羽と劉邦」にもハマり、どこかで手に入れた「史記」も読んでいた覚えがあります。すべての発端は、こども名作全集の「三国志」でした。家に「こども名作全集」がなかったら、私はどんな人生になっていたのだろうかと考えると、何かそら恐ろしい気分になってきます。しかし、同じ本は弟や妹の目の前にもあったはずで、弟や妹がそれらに関心を持ったのかどうかは不明です。
経験が未来を創る
私はこの原稿を考え始めた2~3週間前に、ふと思いました。
「あの頃、最初の部分だけ読んですぐに読むのをやめた本を今最後まで読んだのなら、自分に欠けている部分を成長させることができるのではないだろうか。こども名作全集ならひらがな中心の平易な文章だから、一瞬で読んでしまえる」
そう思った私はインターネットで探して、全50巻を購入しました。赤茶けた古本ですが、保存状態は良好でした。手に取って、この50巻シリーズの「はじめに」を読んで愕然としました。全文を掲載します。
「本を読んでいると、まだ行ったこともない珍しい国を旅行したり、知らない人とあって楽しいお話をしたりできます。
また、自分では気がつかなかったやさしい心やあたたかい心が自分の中にあることに気づいて、明るくなったり勇気がわいてきたりして、うれしくなるでしょう。
このように、読んで楽しいお話が世界にはたくさんあります。
それを集めてみなさんにわかりやすいように書きあらためたのが、この本です。ちょうどみなさんの年ごろは、心がすくすくとのびている時です。
それだけに大切を時でもあります。
どうか、この本のお話の中からいろいろな人たちの生き方や考え方を学んで、心をのばし、正しいあたたかい人になってください」
今の子供たちは、スマホのゲームやYouTubeにハマっています。特に、夜に眠る直前はスマホの画像です。
それがどんな未来を創るのか誰もわかりませんが、心配にはなってきます。