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月刊メディカルサロン「診断」

ウクライナとロシア、私の見え方掲載日2023年4月2日
月刊メディカルサロン4月号

ロシアがウクライナに攻め込んで一年が経ちました。攻め込めばすぐに決着がつくだろうと思った人もいるでしょうし、これは泥沼の持久戦になるぞと予想した人もいるでしょう。戦争を起こして持久戦になれば、国力を損耗して国は疲弊しますので、持久戦を目論んで戦争を起こす人はいません。戦争前、プーチン大統領は、あっという間に決着をつけられると目論んでいたのは間違いありません。
この戦争に関して、多くの人がいろいろな見方をしていることでしょう。人それぞれで見え方が異なりますが、「自分はこのように見えている」というものをまとめておくと、脳の活性化になって良い勉強にもなり、そしてのちに振り返った時に自己の考えの進め方の弱点もわかるようになります。
私は国際的な学者でもなく、国際情勢を独自に入手する術(すべ)なども持っていませんのでまったく的外れかもしれませんが、今回は私の見え方を紹介したいと思います。

夫婦のような関係

もともとロシアとウクライナは、同じ民族(大ロシア民族、小ロシア民族)です。我々がロシア発祥だと思っていたボルシチスープやロシア軍隊の象徴だと思っていたコサック兵は、実はウクライナの発祥でした。ということは、我々はロシアとウクライナは同じようなものだと思っていたことになります。
そして、大事故を起こしたチェルノブイリ原子力発電所は、我々はロシアのものだと思っていましたが、実はロシア国内ではなくウクライナ国内にありました。ということは、ロシアの原子力技術でウクライナ国内に原発を作ってあげたということになります。ロシアはウクライナに技術供与をして、ウクライナの国を育てる努力をしてきたということになります。
それらを考え合わせると、ロシアとウクライナはもともと一心同体で、夫婦のような関係だったと言えそうです。大国のロシアが貧しかったウクライナの国を成長させるために、かなりの努力と援助をしてきたということになります。夫婦で言えば、大富豪の男性が貧困家庭にいた貧しい女性を妻にして、知性的にも物質的にも一流の良い女性にしてあげようと努力してきた姿が連想されます。
努力の甲斐あって、その妻は「誰が見ても素晴らしい」と思う良い女性に育ちました。「良い女性」になると、大勢の男性からアプローチを受けます。「私がこのような女性になれたのは夫のおかげ。だから、誰からアプローチされても見向くつもりはありません」と言い放てば、夫婦間の信用関係は高まり、夫婦仲は円満に進みます。逆に妻が、「良い女性になれたわ。だからいろいろな男性が私を求めてくれる。アプローチしてくれてありがとう」と思い他の男に、「これからは夫から離れてあなたの側で過ごしたいわ」と言ってしまえば、夫は逆上して怒り狂います。

プーチン大統領の思惑

ウクライナは後者の道を歩みました。ウクライナは欧米諸国からのアプローチを受けた時に、そちらにどんどんと靡いていったのです。当然ロシアは怒り狂います。この怒りには理屈は通用しません。
「貴様、許せん。与えたものを奪い返しておまえを無茶苦茶にしてやる」
この気持ちがわかる男性もたくさんいるのではないでしようか。まさにそれが、ロシア側(プーチン大統領)の気持ちだったのです。
しかし、「この女、許せん」といくら思っていても、かつては愛した可愛い女性です。「心のどこかに良心は残っているはずだ」と思うのが、男心というものです。
当初プーチン大統領は、東部に攻め込んでウクライナの目を覚まさせ、そこで首都に向かって大軍を送り込めば「私が間違っていました。ごめんなさい。今後はあなたに尽くして生きていきます」と謝ってくれるのではないかと期待していました。具体的には、ゼレンスキー政権を打倒して新政権が生まれ、その新政権が自分を迎え入れてくれて、あっという間に決着がつくと思っていたのです。そんな展開になるはずだから、「この戦争は短期決戦になる。故に攻め込んでも大丈夫」と目論んでいたのです。

命より大切なもの

しかし、プーチン大統領の目論見は外れました。ウクライナの命懸けの抵抗を受けることになります。人には命よりも大切なものがあったのです。
「命よりも大切なもの」がわかりますか?大勢の人が死んだフランス革命、アメリカの独立運動、アメリカの南北戦争、太平洋戦争後の民族自決の運動。命よりも大切なものを求めて、多くの人が死んでいきました。
そうです。それは「自由」なのです。
欧米化の流れの中で「自由」を知ったウクライナの人々ですが、ほんの一昔前のソ連時代の自由がなかった時代を知っています。ロシアには、そのソ連のイメージが被ります。「せっかく得た自由を失うくらいなら、勇ましく死んだ方がましだ」とプライドある人々は思います。だから、自分の命を的(まと)にしてでも、自由を守ろうとします。当然、ロシアの侵略に対しては、命懸けの抵抗の一途になります。各地で激しい戦闘が繰り広げられます。「自由を守るため」の大義名分を持つウクライナ兵の士気は自動的に高まり、1人が10人を倒す勢いになります。大国ロシアもさすがに手こずります。
欧米はこの機会に、自由の流れをロシア国内に浸透させたいと目論みます。ウクライナを徹底的に支援して三角の戦いを続けていれば、そのうちロシア国内に自由の論議が起こり、革命という形式でロシアが崩壊することを期待しています。ロシアが分断され、欧米(自由主義陣営)はロシアが自由主義国家へと生まれ変わり、ロシアと中国の二大国を相手にするのではなく、中国一国を相手にできる状態になることを望みます。中国の習近平主席は、つかず離れずの立場をとり、ロシア崩壊後に極東一帯の統治権を得ることを念頭に置いています。

あの人の手紙

ロシアの徴兵は、モスクワから遠く離れた地域からの徴兵が主体となっています。モスクワから離れた遠方地では、伊勢正三氏の歌詞にある出来事が日常のルーチンになっています。

泳ぐ魚の群に石を投げてみた
逃げる魚達には何の罪があるの
でも今の私にはこうせずにはいられない
私の大事なあの人ば今は戦いの中
戦場への招待券というただ一枚の紙きれが
楽しい語らいの日々を悲しい別れの日にした
殺されるかもしれない私の大事なあの人
私たち二人には何の罪があるの
耐えきれない毎日はとても長ぐ感じて涙も枯れた
ある日突然帰ってきた人
ほんとにあなたなの さあ早くお部屋の中へ
あなたの好きな白百合をかかさず
窓辺に飾っていたわ
あなたのやさしいこの手は
とてもっめたく感じたけど
あなたは無理してほほえんで私を抱いてくれた
でもすぐに時は流れて あの人は別れを告げる
いいのよ やさしいあなた 私にはもうわかっているの
ありがとう私のあの人
本当はもう死んでいるのでしょう
手紙がついたの あなたの死を告げた手紙が
(『あの人の手紙』作詞:伊勢正三)

持久戦化した今、この戦争の帰趨など容易に想像できるというものです。プーチン大統領はロシア(と言ってもモスクワ周辺のみ)が一枚岩であることを装い、アピールを大袈裟にし始めたのですから、その帰趨の日は遠くないものと思われます。

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