月刊メディカルサロン「診断」
研究活動、教育活動はクローズドサークルをつくって熟成させるもの掲載日2023年12月29日
月刊メディカルサロン1月号(後編)
慶応病院の近くにマンションの一室を借りました。本当は、慶応病院の中で一室を設けて研究所にしたかったのですが、世の中そんなに甘くはなかったのです。
そして、慶応病院の医師、慶応大学医学部の大学院生を兼任する形式で、健康管理学研究の拠点と仕組みの基地を設けたのです。
その時は来た!
プライベートドクターシステムというクローズドサークルに入ってくれる人など皆無でした。ひたすら資金が流出します。貯金が瞬く間に減りました。ついには、消費者金融にまで手を出したのを覚えています。しかし、他院での当直やパートを行いながら、苦心して存続させ、人間関係をたどりながら、半年ほど頑張る中である既存の人間集団に対してセミナーを行う機会を得ました。ある地区のライオンズクラブでの約30分のセミナーでした。積極的予防医療の話をしたのですが、このセミナーが大受けしました。講釈師としての私の才能が活かされた瞬間でした。そのセミナーの参加者から「プライベートドクターシステムに入会して、あなたのその研究活動に協力したい」と申し出てくれる人だけでなく、「私はある会合を主宰している。その話を私の会合でも話していただきたい」という要請も集まりました。
セミナーの講師としての要請が増える中で、プライベートドクターシステムの会員も集まり始めました。「医師(私)と会員の友誼関係」「豊富なコミュニケーション」を謳っています。1~2カ月に一度会うのですが、約1時間の会話の中で、その会員の健康に関する思いを聞き出します。たいていの人は、何かの持病があり、どこかの病院に通っていました。最初はその病院の不満話から始まります。「説明不足で知りたいことを教えてもらえない」という不満がほとんどで、私の役割は会員が納得して理解できるようにその持病を説明し、そして通っている病院の主治医の腹の内を解説してあげることでした。インターネットがなかった当時、病院通いの患者たちは、自分の病気に関して何ら調べることができず、担当医の話をうのみにするしかなかった時代でしたので、この活動は大いに喜ばれました。
そんな話の隙間に、私がイメージする健康管理学のあるべき姿を話し、積極的予防医療に関心を持ってもらうように努めました。診療を行っているというより、家庭教師を行っているという日々でした。健康管理学の布教活動を行っているという錯覚を抱いたこともありました。そんな日々でしたが、紹介による新入会者も増えました。
ウェイトコントロールシステム誕生
苦心しながら運営するうちに、もう一つのクローズドサークルが自然発生的に誕生しました。「体重を減らさなければいけない」という思いを持つ中高年者を中心とする人間集団です。そこで体重管理の指導を行う医療を考えました。当時は、「太っていることは富の象徴」から、「太っていることは健康に悪い」への転換期でした。ダイエット系のテレビ番組も出現しましたが、「しっかりと食べなければ健康に悪い」「あれを食べたら痩せる。これを食べたら痩せる」を訴える番組ばかりでした。今聞くと驚かれるかもしれませんが、「体重を減らすためには食べる量を減らさなければいけませんよ」と指導すると、「それは健康に悪いはずだ。何を食べたら痩せるのかを教えてもらいたい」と大真面目に言い返される時代だったのです。「私はそんなに食べてないはずだ」と怒りながら主張する人も大勢いました。「今の体重を維持するだけ食べているのですよ」と諭すのにも苦労したものです。今では「食べ過ぎているから太っている」は当たり前ですが、その当たり前が通用するようになったのは、60万部を超えた私の著作『お医者さんが考えた朝だけダイエット』(三笠書房)が時代の転換点になったと、私は多少は自負しています。
さて、話を戻してダイエット指導を行う対象となる人間集団をウェイトコントロールシステムと名づけました。会員の立場では自分の体重管理を指導してくれるシステムで、私の立場では体重管理を学問化するための試行錯誤に取り組んでくれる人間集団です。そのシステムの方がどんどん成長し、そこで組織運営全体の資金繰りを成すことができました。創業当初には全く予想していなかった展開で、運が強かったのです。
続々創出 新医療システム
プライベートドクターシステムの運営は、新たな医療システムを次々と生み出しました。健康に関する会員の言葉に耳を傾け、それを実現しるためにどうしたらいいのだろうかを考え抜く中で、新しい医療体系が出来上がり、その医療体系を目的とする人間集団をクローズドサークルに配置し、その中での試行錯誤が繰り返されます。
プラセンタ医療を世に送り出したのは、「プラセンタエレガントクラブ」というクローズドサークルでした。幹細胞の活性化をテーマとしたのがプラセンタ医療ですが、それは今では幹細胞培養などの医療へと進歩しています。内々で行っていた、「花粉症注射」は自然に普及し、クローズドサークルの必要はなくなりました。「気力、体力、容姿を若返らせる」をテーマとするアンチエイジングの医療システムは、プライベートドクターシステムサークル内サークルとして芽生え、その研究は光速の進歩を遂げ、一気に世に広まりました。子供の背をのばす医療もクローズドサークルの中で試行錯誤を行い、やがて治療手法に確信を持った時にオープンにしました。極秘傾向のある一つのクローズドサークルを作って、「その中で試行錯誤を繰り返し研究データを集めながら、十分に手法を熟成させた上で世に送り出す」というのが世に新しいものを送り出すステップとなるのです。私が世に送り出した後に、「見様見真似(みようみまね)」でその医療の真似をする医師が現れますが、時間をかけて底辺からじっくりとその医療を熟成させた私の目から見ると、「真似っ子たち」は児戯に等しい医療を展開しているように思えます。
膠着状態が続く二分野の存在
しかし、この研究活動で苦心している分野が二つあります。「診療現場へのサプリメント導入」と「健康教育システム作り」です。
診療現場へのサプリメント導入は、来院している人と同時に健康状態に関して私の問診票に答えてくれた人を中心とする人間集団を作り、そのクローズドサークルの中で調査研究を進めます。「第4栄養素」という概念を生み出し活動してきましたが、ある事情で今は停滞しています。完成させることができれば、診療現場の医師の意識改革をもたらし、国民の健康増進に大いに役立てられ、さらに医療費の節約にも寄与できるのにという忸怩たる思いがあります。
生涯テーマである「全国民の健康、人体、医療に関する知識の向上」を目論むシステムは、エステオーナーを集めた人間集団を作り、それをクローズドサークルとして教育啓蒙の手法の研究をすすめノウハウ向上に取り組んできましたが、これも今はある事情で停滞中です。完成させることができれば日本中に健康教育システムを広められるのにという忸怩たる思いがあります。
ある事情とは、「人または動物の疾病の診断、治療または予防に使用されることが目的とされているものは、医薬品とみなす」という厚労省の通知です。機能性表示食品をはじめ、世のあらゆるサプリメント(栄養素品)が健康増進、すなわち疾病の予防などを標榜しているのですが、私が開発したものに限っては、「医薬品とみなす」と指摘してくるのです。