月刊メディカルサロン「診断」
真の予防医学は、からだのチェックのみにとどまらず・・・月刊メディカルサロン1999年2月号
私が慶応大学医学部を卒業して、医師になったのは平成元年春でした。普通に研修医を勤めました。社会的にはバブル経済真っ盛りのころでした。医療的には、マスコミから「検査づけ」「薬づけ」「説明不足」「3時間待ちの3分診療」などの非難が相次ぎ、「医師不信つのる」の風潮が高まっている時代でした。
実はそのような医療へのクレームが高まるというのは、自分のからだを見つめる人々の心が変化してきた、ということを意味しているのです。
戦後復興を目指し、全国民が一丸となって日本国を成長させようとしていた時代は、健康の問題は重視されるものではありませんでした。「健康をすり減らしてでも働きぬく」ことがむしろ美徳とされていたものす。その時代に、「病気を治療する」という医療が進歩しました。「病気になって行き倒れたらなんとかしよう」という医学です。そして、それを支える保険医療制度が成長しました。その社会背景の中で日本の医療は育ち、組み立てられてきたのです。
日本国は十分に成長し、豊かな社会資本を蓄えるにいたりました。今では、周囲を見渡すと「あれは面白い、これはいける、それこそまさに素晴らしい」というものがたくさんあります。それらをすべて楽しみ、味わい深い豊かな人生を築くためには「健康でなければいけない」と考える時代になってきました。
健康でなければ仲間どうしでお酒を飲みながら大言壮語にふけることもできません。健康でなければ海外に旅行することもできません。健康でなければ会社の繁栄30年の計画を立てることもできません。健康でなければ、恋愛、セックスを楽しむこともできません。
「今、健康だ」と自負しているのなら気がつかないと思いますが、できて当たり前と思っていることが、ちょっとした健康トラブルをきっかけに一気にできなくなってしまい、人生の楽しみを失うことになるのです。結局、健康でなければ人生を楽しむことができません。健康を維持、増進する医学の進歩とそれを活用する舞台の創設が望まれるようになったのです。
その要請を受けて、予防医学は素晴らしい速度で成長しています。しかし、その進歩した予防医学を活用する舞台が乏しいのです。
予防医学の活用といえば人間ドックを想像することと思います。「脳内革命」を著した春山茂夫氏らは、高額の会員制の人間ドック施設を創ったりもしたものです。
私はそのような高額の会員制の検査施設を創設することには賛成しません。本来の予防医学の使命は、からだをチェックするという次元のはるか彼方を成し遂げることなのです。
私は、まず顧問医師という立場でアプローチし、良好な人間関係を築くことに気をつかい、その上で、今の異常の有無を調べるための検査に偏ることなく、その人の健康状態の将来像をイメージして、健康管理を指導していくという路線に徹底しました。
メディカルサロンがスタートして早くも7年が経過しました。その間、私は予防医学の最先端を追求し、それを人に上手に活用することをテーマとしてすごしてきました。
今の私には、「この人はからだをこのように改良すれば長生きできる」「このままだと10年以内に心筋梗塞をおこすだろう」「きわめて高い胃がん発症率を抱えて生活している」「こうすればこの人は肺がんにならない」「この人はそのうち大腸がんにかかるだろう」などが手にとるようにわかります。
メディカルサロンのプライベートドクターシステムには、45歳以上の企業経営者を中心に500人以上もの会員がいますが、心疾患、脳血管疾患やがんなどでお亡くなりになった人は1人もいません。進歩した予防医学のノウハウをシンプルにストレートに活用するだけでそれほどの成果をあげることができるのです。
このノウハウをますます洗練させ、幅広く世の中に役立たせ、後世に残る何かを目指して、私は鋭意努力しています。