月刊メディカルサロン「診断」
○○の世界ではよくあること月刊メディカルサロン1999年9月号
ある一つの社会に飛び込んだとき、あまりにも自分の意にそぐわなかったので、さんざんクレームをつけた。ところが、その「意にそぐわなかった」という部分が、その社会に関わる人達にはごく常識的なことで、皆が自然にそれにしたがっているのを知り、あとで恥をかいてしまったという思い出はないですか。
たとえば、ある飲み屋のクラブに三人で飲みに行って、飲食代として20万円請求されたとしましょう。「ぼったくりだ」と大騒ぎして店員にクレームをつける人がいます。でも後で、その店のお客さんはみな、当たり前のように20万円ぐらいを支払っていることを知る、というようなケースです。
各社会で常識が異なります。新しいひとつの社会、世界に関与するときは、いきなり突出した言動や行動を行うことを避け、その閉鎖社会での常識がどういうものなのかを慎重に見極めた上で動き出すべきなのです。
学生のレイプ事件が世間では取り沙汰されています。逮捕された学生達は、取調べ官に「おまえ達がやったことは犯罪なんだぞ」と言われて、はじめて犯罪であることに気づいたそうです。彼らの頭の中には、「学生の世界ではよくあること」という認識で、それが犯罪であるという認識はなかったのでしょう。
あのような事件から、今の学生社会が類推されます。複数の男性が1人の女性と…、などというものは私の学生時代には考えられないことでした。また、女性が交際しているわけでもない男性の部屋にあがりこんでくるというのも、私が学生だった10~15年前にはほとんど考えられないことでした。学生の世界は、あの頃とはかなり違う特殊な世界になっているのでしょう。「今の学生社会では、よくあること」という認識が事件を生み出しました。
生命保険をかけてその後殺害し、生命保険金を掠め取るなどというのは、常識を超えた事件に思えますが、案外、当事者達は「金融の世界ではよくあること」ぐらいにしか認識していないのかもしれません。
日中にパチンコ店を覗いてみると、サラリーマンらしい人達が、大勢遊んでいます。彼らは会社に帰った後、残業などして残業代を請求しているのでしょう。「サラリーマンの世界ではよくあること」などと言って、いつのまにか会社に対する背信行為を行っているのです。
いったん目標を立てて、「この期間にこれだけのことを成し遂げる」と決めたら、何がなんでも成し遂げようと必死の努力をする人がいます。その人の常識は「目標は達成するのが当たり前」です。ところが、大した努力もしないで「目標は達成できませんでした」と平然とうそぶき、そのくせ報酬を要求する人もいます。その人の常識は「目標は達成できなくて当たり前」なのです。
いつのまにか、自分たちの世界ではよくあることだなどと思いながら、社会規範や道徳に反した行動をしていないか、今一度自省する機会をもって欲しいと思います。自省するべきことを見つけ出すのも大切な能力です。自省することなどない、と思っている人は以下を読んでください。
出張で遠方に出かけ、出張での仕事を終えた後、「せっかくだからついでに観光地の○○によって遊んでいこう」などと思ったりしませんか。遠隔地に出て作戦行動を行ったら素早く本拠に戻るのは、事業運営の鉄則です。作戦行動の帰りに余計な時間を費やすことは、慢心と堕落の徴候と判断され、兵法の世界では厳しく戒められています。
そういえば、いつも戦いを終えたら一直線に本拠に帰っていた織田信長が、甲州武田氏を滅ぼした直後はすぐに戻らず、駿河を周遊し富士山見学などと洒落こみました。その後、本能寺の変で信長は倒れ、二度と戦場に立つことはなかったのです。駿河周遊、富士山見学が慢心の現れであり、知能鋭い明智光秀らは、これなら討ち取ることができると判断しても何ら不思議はありません。「出張に出かけたら、多少は遊んでかえって当たり前」などと思っていませんか。自省するべきことは思わぬところにたくさんあるものです。
ところで皆さん。「○○の世界では、とても考えられなかったこと」を見つけ出したときはそれを大切にしましょう。上手に育てたら、大きなビジネスの芽になるのですから。