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月刊メディカルサロン「診断」

健康教育の振興月刊メディカルサロン2002年7月号

未知の領域でのトラブル

ある分野で長年の事業経験のある人が、別の事業の業界に飛び込んだとします。そして、その業界の特徴や風習を調べもしないで、「あれはダメだ」「そんなバカな筈はない」と絶叫することがあります。後になって、業界の特徴、風習を知って「あのときの絶叫は恥ずかしかった」という思いをすることがしばしばです。別の業界に対する知識不足とその人自身の「文句を言いたくなる性格」が原因です。

医療の業界において、同様の問題が起こりがちです。医療の本質的な中身を知らないために、患者側がもめごとにしている事件がよくあります。
たとえば、バリウムによる胃の検診。あくまで集団検診ですので、医師側は「何十%の確率で見落としがある」というのをあたりまえのように知っています。しかし、受診者は、検査により確実に異常を見つけ出してくれると思っています。そのギャップが医療関連事件として問題になることがあります。

高齢者が手術するときは、麻酔や術中、術後に関して予想外のトラブルが起こることがしばしばです。予想外ですから、事前の説明は困難です。医師側は、高齢者の手術は予期し得ない事態が生じてもやむを得ない、とあたりまえのように思っています。ところが患者の家族はそうは思っていません。それらのギャップが医療問題の発端になります。

誰にでも身近に起こりうる医療問題

説明不足が問題視されていますが、説明を正しく理解できる基礎知識が決定的に不足しているのもまた事実です。医師側は事前に説明していたつもりでも、患者側への伝わり方がまったく異なっていたということもしばしばです。伝わり方が異なるのは、専門知識に格差がありすぎるからです。
医療の仕組みにとどまらず、基本的な人体に関する知識や健康トラブルに関する知識でさえ不足しています。副腎がどこにあるかを知らない人がほとんどですし、頭痛や腹痛、関節痛が起こるメカニズムさえ知らない人がほとんどです。ましてや、医薬品を使うということの本質的な意味合いさえ、理解不足でしょう。

国民一人一人が人体を学ぶ機会を

最近、介護の問題、医療過誤、医療制度のあり方など、身体に関することを源泉とする問題が社会テーマになっています。それらを解決するために、全国民の「人体に関する知識の向上」が不可欠です。人体に関する知識とは、単なる人体の構造や各臓器の役割にとどまらず、健康トラブルのメカニズムや予防医学の知識、さらに広義には病院との付き合い方なども含みます。

人体、健康のことは、日常生活に密着した生涯の問題ですので、本来は義務教育に採用され、成人するまでに、一定レベルの知識にまで到達していなければいけません。しかし、人体のことを十分に学ぶ機会は与えられませんでした。そこで、私は健康教育を実施していく母体組織が欲しいと切望していました。先日その願いがかないました。特定非営利活動法人として設立申請をしていた「日本健康教育振興協会」が正式に承認されたのです。
日本健康教育振興協会を母体として、成人向けに健康教育活動を幅広く実施すると同時に、政府との対話の窓口を設け、学校教育において生徒達が人体、健康、医療に関する知識を修得する機会を与えていくことを目標に活動していきます。

まずは、成人向けに通信教育講座を開設し、健康管理カウンセラーの資格認定を行います。そして、小学生、中学生と対話を深め、義務教育における健康教育コンテンツの研究へと邁進していこうと思います。教材制作と義務教育用コンテンツ研究、これからの1年間は、私は修行僧のような生活を営むことになりそうです。

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