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月刊メディカルサロン「診断」

プライベートドクターシステムの成長月刊メディカルサロン1997年4月号

前号までの経緯により、プライベートドクターシステムは「会員と医師との一生涯の友諠関係」を土台とする会員制システムとして、平成4年7月に始動しました。

そして、それまでの親戚や知人ら数人に理解していただき、会員になってもらいました。しかし、理想の大きさに反し、その人たちに提供できるサービスは「検査で身体を調べ、その結果を面白くわかりやすく説明する」「電話での健康相談に応じる」「慶応病院への紹介状を書く」の程度でした。心の中にはいつも「長生き確率を高める健康管理指導」が渦巻いていたのですが、具体的な活かし方がイメージされてこなかったのです。せっかく世界中から集めた知見を役立てようと思っても、その力強い活かし方を見いだせず、結局は人間ドックの延長のようなことしか会員に提供できませんでした。

その頃、ある方のご紹介で東京都内のライオンズクラブでセミナーを行ったことがありました。私の理想とする健康管理学の一部である「アスピリンを利用することによる心筋梗塞発症率の低下」を語りました。参加者の大きな関心を呼びましたが、その参加者から実際にアスピリンを利用しようという人はほとんどいないようでした。健康危機に対する漠然とした不安を持つ人は多いのですが、積極的に対策を立てておこうという人は少なかったのです。「病気になってから考えるものだ」という考え方が支配的なのだろうかとも思いました。また、「健康管理=節制しなければ」という抑圧的イメージが強かったのも否定できませんでした。

心筋梗塞や脳梗塞、ガンといった生命を奪い去る病気にかかる確率を下げておく方法は確かにある。「節制する」という取り組みではなく、もっと単純な医療を日頃から受け入れるだけでその発症率を下げておけることは間違いない。世界中の医学論文がそれを証明している。現にアメリカではVIPといわれる人たちには顧問医師がいて心筋梗塞の発症率を下げるためにアスピリンを内服しているではないか。それなのに私が話していることをなぜ日本で私の話を聞いている人に受け入れてもらえないのだろうか。
いろいろ考えた結果たどりついた結論は次のようなものでした。「そのノウハウを皆に指示することはできている。それを納得し理解してもらうこともできている。しかし、それを受け入れ、実践するだけの勇気をあたえられるほどの信用が自分にはないんだ」ということでした。

やはり○○大学の教授や□□病院の名誉院長などの肩書きが必要なのだろうか。そういえば医学界ほど権威付けが重視される世界も少ない。マスコミは医学界の権威性を非難しながらもいざ医療関連や健康関連の記事を書くときは○○病院の教授や助教授のお言葉のみを重視している。
私が興そうとしている新しい医学分野=健康管理学の基本思想は間違えていないはずだ。今後、世の中が必要としてくることは間違いない。「病気になった人を治療する」という医学の重要性は当然だが、「病気になる確率を下げる」という医学を必要としている人も多いはずなのだから。しかし、慶応病院に従事する一介の医師にすぎない私の話を心の底から信用し、受け入れる人はまだまだ皆無なのだ。

苦難の時代は続きました。しかし、翌年3月に突如として総てを打開し、好転への突破口となる人との出会いが訪れたのです。

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