患者と医療機関従事者(医師、看護師、事務員、その他)とが接する現場の改革
1.「その場限りの繰り返し」の排除と身体情報収集システム月刊メディカルサロン2008年6月号
平成7年に発刊された初めての著作『一億人の新健康管理バイブル』(講談社刊)の「おわりに」の一節に、私は次のように記載しました。
「今の日本の医療には解決困難な3つの課題があります。1つが医師の説明不足と患者側の理解困難の問題、1つがガン告知・末期医療の問題、そしてもう1つが医者の出不精という問題です」
そして、それらの原因は何かについて次のように記載しました。「医師と患者のつながりが、その場かぎりの一時的なものだから」と。
医師と患者の接点が診察室の中だけに限られていることを非難したのです。診察室を離れると医師と連絡を取る道がシャットアウトされます。医師側も一度診察したら、次回の診察までは赤の他人でいたいという本能を持ちます。ちょっと医師に尋ねたいことがあって、その病院に電話をかけても、その担当医が電話に出てくれることは滅多にありません。
スタッフに尋ねても「診察に来て医師に尋ねてください」と突き放されます。診察室の中だけという短時間で、アピールしたいことを話しきれるものではありません。医師に対しては話しにくいこともあります。些細なことは聞けないという思いもあるでしょうし、費用がいくらかかるかなども話しにくいことでしょう。また、プライベートなことで話しにくいこともあります。そんな状況では、自分の命を預けることに満足しきれるものではありません。
そこで、私は「24時間365日体制で患者(会員)との接点を作る。豊富なコミュニケーションで“人間関係を作る”ことを第一とする」と宣言し、メディカルサロン作りを始めました。
1人の患者を診るとき、医師には医師の視点があり、看護師には看護師の視点があり、一般の事務員には、事務員の視点があります。医師や看護師には相談しにくいことでも、事務員には話しやすいこともあります。治療費の問題などはその代表例ですし、医師が話したことの内容確認などもその一例です。
メディカルサロンでは医療スタッフ総出で、患者(会員)とのコミュニケーションを深めていくという路線をとることになりました。やがてこの路線は、患者の身体情報を常に獲得するという方向へと進化しました。豊富なコミュニケーションとそれに基づく人間関係づくりは、日頃の電話での会話などで患者の身体情報を得ていくシステムを確立していったのです。
創業以来15年の歴史を経て、メディカルサロンは総院長風本、各院の院長、患者の担当医を中心として、看護師、事務員など全従業員が一丸となって、患者の健康を守るために患者の身体情報の収集が行えるようになっていました。
メディカルサロンには大勢の利用者が通っていますが、その一人ひとりの身体の異変は、日ごろの電話によるコミュニケーションなどを通じて、担当する医師に素早く伝えられています。また患者が「医師に伝えてほしい」と望んだことは即時的に医師に伝えられています。
一般の病院では診察室の中だけが医師と患者との接点で、診察室を離れると医師との接点がなくなってしまうという「その場限りの繰り返し」となることと比較すると、メディカルサロンの患者管理体制は格別に優れています。社会に望まれている医療システムを先駆けて構築していたのです。
この点が支持され、自由診療でありながら利用希望者を増やし、メディカルサロンは事業規模を拡大することができたのです。日本における医療の盲点、弱点を見事に克服した「患者・医療従事者間の人間関係作り」ができています。
しかし、行政側は、従業員による患者の身体情報収集活動のことを「医師でない従業員が医療行為を行った」と曲解しています。従業員が一般的な健康話を行うことや担当医が指導したことの復唱を行うことはありますが、独自に専門的な指導を行うことは決してありません。患者側も、話している相手が医師でないことは十分に知っています。
ところで、カルテへの記載は医師しかできないのでしょうか?そのような決まりはありません。
つまり、看護師であっても、事務員であってもカルテに自筆で記入していいのです。そこで、私はすべてのスタッフが患者情報をカルテに記入することを認めました。もちろん、誰が書き込んだかが明確に分かるようにしておきます。
メディカルサロンのカルテには、患者の情報に関して実に多彩な内容が記録されています。カルテに書かれたスタッフの記述を読むと、患者の日常生活の生々しい姿が浮き上がってきます。
また、カルテには、患者からは切り出しにくい治療費に関する話なども記載されており、患者と看護師、患者と事務員とのコミュニケーションの内容を知ることは、人間性あふれる治療計画を進める上で重要であると思います。
保険医療における診療により記載されたカルテの内容と、メディカルサロンにおける自由診療によりカルテに記載された内容とを比較すると、どちらが本来の医療のあるべき姿であるかは一目瞭然です。
このカルテへの記入を、「従業員が診療まがいのことを行っている」「副作用を訴えても従業員が診療」などと見当違いな解釈でNHKが報道したことは、痛恨の思い出です。